観光の目玉
物語を生かした地域旅

はじめに


本書は二〇一一年四月に同じ学芸出版社から出た『地域旅で地域力創造』(佐藤喜子光、椎川忍編著)の基盤の上に展開する「実践編」という位置づけを持つ。

「地域力の創造」を成功させ継続的なファンを獲得するためには、演出の「ツール」が必要である。例えばその地の伝説・物語。あるいは信仰やそれに関わる祭事。その地に残る独特の風習。また、生業に直結する産業形態。それらを観光客に見せることでその地の本当の素晴らしさを知ってもらうことができるが、本書ではこの中の特に「物語」に着目し、物語の観光利用に関する具体的事例と可能性に関して考察した。

先の『地域旅で地域力創造』は体系化された理論を示したものであるが、本書ではその実践的・具体的な側面により重点をおく。したがって、一旦前書を読み「地域力創造理論」を理解して頂いた上で、本書でノウハウを学んでいただくというのが一番オーソドックな本書の利用法である。ただ実際には、まず本書から手に取って購入頂いた方や、前書の「おさらい」の意味もあって冒頭部分、主に第1章に重要項目をリストアップし、第2章以降への視角の確認が可能なように配慮した。

第2章は敢えて、成功例として認められている観光地―水木しげるロード―を題材にして深掘りするという冒険に挑戦して、そこでさえ、もう一歩、改良を進める新しい視点があることを示した。

さらに、第3章では、これから「観光」に取り組む人達に資するように、「物語」を、汎用性の高いツールとして解析した。

ちょうど本書の企画が本格化し始めていた二〇一一年三月十一日、マグニチュード九という最大規模の東日本大震災が発生した。これは周知の通り一地域の震災に留まらず、ポストZERO年代の日本社会は否応なく「地域力」を要求されることになった。共著者三人のすべてが本書の執筆にさらに大きな責任を覚悟したのは言うまでもない。

本書が地域を盛上げ新しい観光を模索する、観光関係の諸団体・NPO・企業・地方自治体各位に対して現実的かつ哲学的な面から手助けになることを切に願っている。

NPO法人 地域力創造研究所理事長 佐藤喜子光