宝探しから持続可能な地域づくりへ
日本型エコツーリズムとはなにか

はじめに

  近年、持続的な観光地域づくりの論議がよく話題に上る。しかし悲しいことがある。それは無駄の削減、経済の効率化、合理化の追求の下で、市町村の合併につぐ合併が進行し、自分達の住んでいる地域意識の希薄化に拍車がかかっていることだ。誰もが「どこに住んでいるの」とか、「どんな町なんですか」という問いへの答えに詰まってしまい、すぐには答えられなくなっているのではないだろうか。そもそも私達にとって、地域とはどのような意味をもった存在なのであろうか。また地域が発展するとは、何が活性化し、広がっていくことなのであろうか。この「何?」への問いなしには、「持続的な観光地域づくり」のあり方や具体策を見つけることは難しいのではなかろうか。

  よく言われることではあるが、中国の易経に「観光」とは「光を観る」と記されている。そして光り輝くところに多くの人々が集まり、国は栄え、活性化し発展することを示唆している。

  言うまでもなく「光」とは人々の「誇り」であり「自慢」を指す。「誇り」や「自慢」とは、多様な自然に恵まれた我が国にあっては、生きるために自然と否応なく関わるところから生まれた多種多様な生活の知恵である。言い換えれば「地域の生活文化」である。この「誇り」や「自慢」を互いに認め合い、高めていこうとする人々のつながりや広がりが地域であり、その広がりは日本列島の国興しへとつながると考えている。したがって持続的な観光地域づくりとは、認め合う価値や関係を再発見・発掘し、互いにその価値を認め合う関係を広げていく作業とも言うべきものではないのか。

  筆者らは、この地域の光を「宝」と呼びその価値を互いに認識し、活用しながら地域意識を明確にしつつ、地域外へも、それを広げていく発展戦略を「日本型エコツーリズム」による持続的な観光地域づくりと呼んでいる。

  町村合併間もないある市の商工会女性部に相談に乗って欲しいと招かれたことがある。その時、女性部員から「私達の誇りである食文化の価値を知らせるために多くの人々に来て欲しい。食べて欲しい。その方策を一緒に考えて欲しい」と言われた。女性達の頭の中には、行政区域とは異なる、彼女達が認識している食によってつながれた「地域」が描かれていた。筆者(真板)は、このような「地域」が日本全国に生まれてくるならば、世界に自慢できる「地域」から成り立つ新しい日本が創造されて行くに違いないと確信している。

  本書は、次世代に継承し得る、誇れる地域を、日本を生み出そうと試行錯誤しながら、各地で頑張っている人々の軌跡であり、メッセージの記録である。