人口減少時代における土地利用計画
都市周辺部の持続可能性を探る

はじめに


 地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出削減の一環として低酸素型社会への構造転換が求められている。一方、わが国は人口減少時代に入り、都市や地域で積み重ねてきた暮らしや営みを持続的に進展させる整備や維持管理の社会システムの再構築も求められている。とりわけ都市周辺部では土地利用の粗放化と混乱、優良農地の消失が依然として続き、都市の縮小による衰退、荒廃も懸念されている。いわば賢い縮小(スマートシュリンク)に向けた都市計画的対応が急務となっている。しかし、その具体的な内容となるとまだ明らかではない。郊外市街地の単純な撤退や縮小は、現実的ではなくまた適切でもない。
 地球環境問題や人口減少など社会経済面での制約を考えなかった高度成長時代に基本的骨格が創設されたわが国の都市計画ではあるが、近年、これらの課題や制約に応えるために、都市計画マスタープランをはじめ、各種の都市計画の仕組みが整えられてきた。しかし、これらの仕組みを使うことが期待される自治体や地域社会の多くが効果的に活用できていないのではないか、いや、そもそも、これらの仕組みを採用し、実行する前提となる、目指すべき都市のかたち(アーバンフォーム)が描けていないのではないか、という危惧があり、そのことが本書を著す主な動機ともなった。
 そこで本書は、土地利用の計画や運用に携わる自治体や地域社会を支援するために、次の2点のメッセージを伝えようとしている。
 第一に、将来は見通しにくいとはいえ、それでも将来像としてアーバンフォームを描こう、というメッセージである。第二に、描いた将来像を実現するためにふさわしい手法とそれらの運営管理の仕組みを創り、それを営もうというメッセージである。
 特に、国による都市計画制度の抜本的改正などが検討されている中、今後の自治体を中心とする都市周辺部におけるアーバンフォームの追究とその実現やマネジメントのための方向性などを提言する。具体的には、都市周辺部における土地利用をめぐる制度的動向を整理し、それらの可能性と限界を解説する。その上で、先行的に取り組んでいる自治体について、それらの内容と特徴を解説するとともに、今後の課題を提示する。また、関連する主な制度について、それぞれ目的や内容をわかりやすく説明するとともに、今後の適用に際しての課題などを提示する。
 本書の特徴は、都市計画に関わる大学研究者、行政担当者、計画系コンサルタントが著者として参加し、紹介する都市の自治体の職員や地域社会の市民とまじわりながら、最新の土地利用計画制度の意義と限界を実感しつつも、実践的に関与してきた経験から論じている点にある。都市計画に関わる行政関係者、コンサルタントなどの実務関係者、研究者、大学院生、およびまちづくりに関心をもっている議員、企業人、NPO等のリーダーなどにもぜひ読んでいただき、情報を共有あるいは交換できることを願っている。
 なお、本書は、各都市の事例や問題について調査研究しているメンバーが研究会活動を進め、そこでの研究成果をもとに、先行的な取り組みを行っている自治体の担当者などから、貴重なデータの提供や問題の提起などの参加を得てとりまとめたものである。あらためて感謝したい。
2010年7月
編者