転換するグリーン・ツーリズム
広域連携と自立をめざして

はじめに (抜粋)

 この本は、転換期に差し掛かったわが国のグリーン・ツーリズムの実践的課題に関して、筆者が様々な関わりを持たせていただいている地域の事例を踏まえ、各種農水省関連委員会や、全国的あるいは国際的なネットワーク大会、さらには各種学生実習等での実践支援の経験のもとに、独自の見解としてまとめたものである。
 先駆的事例の後追い的な学術書ではなく、真摯な実践者に向けた専門性の高い分かりやすい実践啓発書を目指して、拙い経験をまとめたつもりである。最近では、グリーン・ツーリズムの言葉を耳にしたことのない人でも、多くの識者や個性的なライフスタイルを希求している人々は、その意義を理解し共振することが多い。
 依然として続く「東京一極集中」の一方で、田舎暮らしや本物の食、自然体験への需要も高まっている。一時「デュアルライフ」と評された「二地域居住」を楽しむ人や、「滞在型市民農園」で「農のあるライフスタイル」を実現している家族が増えつつある。
 閉塞的な経済不況、便利なようで住みづらい都会暮らし。もはや、我々日本人は、経済成長や都市文化のみを一元的に求める価値観から開放され、人間的なつながりや、農山漁村の清楚で奥深い伝統文化や豊かな自然を、自らの自己実現につなぐ営みを必要としている。
 心ある人々が感動交流を通して、多様な自己実現を果たし、相互に「共振」「交響」する。
 ともに汗を流し、ともにかけがえのない資源を保全し、再生し、創造する。農山漁村の住民の主体的な実践を、外部の心ある人々が支援し、「協働」によって新たな資源や文化を創出する「協発型発展」を目指したい。
 本書は、以上のような時代認識や問題意識のもとに、多くの実践者やグリーン・ツーリズムの研究を通して、何らかの社会的貢献を目指す方々を意識して書き記したつもりである。
 「農学栄えて農業滅びる」と警鐘が鳴らされて久しい。「グリーン・ツーリズム研究栄えて実践滅びる」とならないように、研究者の限界を超えて実践支援に身を投じてきた。本書が少しでも実践にあたっての指針となるように願って止まない。
 マックス・ウエーバーと偶然誕生日を同じにするものとして、「価値判断」からの自由を心掛けて真摯に事実に向き合いながらも、今後も実践的な課題への接近をライフワークとしていきたい。遠い故郷で真摯に農業を営んでおられる我が親族をはじめ、多くの「農」の担い手の方々や、その生活の場である農山漁村がもっともっと豊かになるために。

 桜の便りを耳にする心躍る季節に、白山のキャンパスにて
二〇一〇年三月   筆者