都市の自由空間
街路から広がるまちづくり

はじめに

 
 都市空間は、基本的に「イエ的な空間」と「ミチ的な空間」に分けられる。「イエ的な空間」というのは、住宅や店舗そしてオフィスビルなどの建物の空間のことである。これに対して、「ミチ的な空間」というのは、多くの人々が通行や遊びに利用する、道路や広場の空間のことである。都市空間の立体化にともなって、地下街のような建築化された「ミチ的空間」も生まれてきた。そうした空間も含んで、わたくしは「ミチ的空間」を「自由空間」と呼んでいる。
 「自由空間」は、単に交通のみの場ではなく、そこは自然と出会い、人と出会い、さまざまな仕事や情報と出会う場であり、それが都市らしさを支えている。別の言い方をすれば、「自由空間」こそが、都市の魅力を表現しているのであり、また、都市の魅力を感じることができるのは、「自由空間」を通じてなのである。
 都市空間は、社会の仕組みやわたしたちの生活が反映したものであり、その意味できわめて文化的なものである。同じように、「自由空間」もまた、その存在様態は社会的であり文化的である。それゆえに、魅力的な自由空間をつくりだすためには、単に空間を設計するという姿勢だけでは不十分であり、社会的文化的な現象として組み立てる観点が重要である。本書はそのような方向を目指した、わたくしなりの試みであり、そのため歴史学や人類学などの分野における研究成果も、本書の考察のなかにとり込んでいる。
 まちづくりの新しい局面の開拓に少しでも役立つことを祈念して、本書を上梓する次第である。