地域生態学からのまちづくり
共生環境のマネジメント

おわりに

 この本は、これまで筆者が携わった研究環境の中で、兵庫県立人と自然の博物館〜大阪府立大学における研究成果をまとめたものである。そして、現在の職場における延べ約60名の大学院生・学部生との共同研究が、この本のすべてといっても過言ではない。筆者が係わった地域生態学研究グループの卒業論文、修士論文、博士論文の一覧は後のページに示すとおりであるが、残念ながらすべての論文がこの本に反映されていない。しかし、すべての論文は、ここで紹介した考え方のもとに作成されたものであり、それらをご覧いただくことにより、さらに地域生態学の対象領域の拡がりが理解されると思う。これからの研究・教育の展開については、第1〜3部の最後でそれぞれの方向性と課題を述べたが、やはり緑地を手がかりに環境マネジメントのあり方を探りつつも、その中で異分野との交流・連携といったより総合的な施策の展開が求められていると思われる。さらに、近年環境問題への対応は最も重大な課題のひとつであり、持続可能な開発のための環境教育の必要性、およびそのような教育を積んだ人々の活躍の場の創出、さらにはそれらを支える制度や仕組みのあり方について、多面的に検討していくことが重要であると考えられる。そして、そのような取り組みを実践する基礎的な単位である地域環境を健全にマネジメントしていくために、地域生態学が果たす役割は大きいといえる。
 この領域の研究に踏み込んでみると、なかなか奥深いものを感じる。この本で設定した視点からみても、個々の視点に係わる要素はまだまだ解明されていないことを再確認するとともに、計画・整備・管理への展開・応用といったことが、研究レベルでもっと強く意識される必要性を感じる次第である。そのような視点からの研究課題はまだ数多く残されているといえる。このような状況の中で、私が携わったこの領域での研究期間はまだまだ短く、これまでの研究をまとめるにはいささか時期尚早の感もあるが、勇気をもってこれまでの研究の途中経過をまとめたものである。また、これまでの研究成果が少しでも社会に貢献しうる内容を含んでいるかもしれないという、かすかな期待も込めて、皆様のご叱責を頂戴したいと思う次第である。
 この本で紹介した事例は、これまでの仕事の中で培った様々な経験が活かされた結果だといえる。特に、研究活動にご指導やご助力をいただいた、前職場である兵庫県立人と自然の博物館の中瀬勲教授、服部保教授、田原直樹教授、澤木昌典教授(現大阪大学)、並びに現職場である大阪府立大学の増田昇教授、下村泰彦准教授、加我宏之准教授に感謝したいと思う。さらに、筆者がこの領域に入るきっかけをいただいた故久保貞教授とコンサル時代に様々な人生訓をご教示いただいた藤田好茂所長に改めて感謝したいと思う。その他、これまで係わりをもっていただいたすべての方々に、この場を借りてお礼を申し上げたい。そして、この本の出版に際しては、初期段階から論構成や文章のチェックをしてくれた押田佳子さん、清水美砂さん、上田萌子さん、そして図表の整理も手伝ってくれた大平和弘君などの献身的なサポートにお礼を申し上げたい。さらに、この本が出版されるに至ったのは、最初の企画の相談から終始ご助言をいただき、きめ細かな編集をご担当いただいた前田裕資氏と越智和子氏のお陰である。ここで改めてお礼申し上げる次第である。最後に、これまでの仕事を支えてくれた妻と子ども達、そして他界している親達に心より感謝したいと思う。
2009年7月 上甫木 昭春