ユニバーサル サイン
デザインの手法と実践

はじめに

 私たちの生活環境の中には、いろんなサインが見られます。看板・広告といった類のサインだけでなく、道路標識や歩行者案内サインなどの公共的なサインまで多種多様なものがあります。
 基本的には何らかの情報を伝えるという目的があり、その情報で生活環境の安全性・健康性・利便性・快適性などの諸要素が満たされることが期待されます。しかし、実際にはサインそのものだけで解決できる問題ばかりではありません。
 例えば、移動環境に関する問題では、不十分な「アクセシビリティ」が原因のひとつになっていることがあります。そこでは移動障害とともに情報障害の問題も大きいといえます。身体状況の差異とともに、外国人など、言葉の理解が困難な状況を考慮する必要があります。
 高齢化や国際化など社会環境の変化とともに、これからより一層いろんな人が安全快適に生活できる配慮が求められます。ちょっとした配慮や気配りで、ずいぶんと多くの人の生活で役立つことがあります。身近な生活の道具や空間での配慮を積極的に進めることが期待されるわけです。そこですべての場面でのユニバーサルデザイン的な発想が重要になってくると思います。
 では、どのような工夫をすれば、特定の利用者の要求だけではなく、より多くの、できればすべての人にやさしいデザインが実現できるか。寸法や形といった物理的環境の改善に関するものだけでなく、素材や色の微妙な取り合いや配慮や工夫によっても実現できることも多くあります。
 とりわけ、移動障害だけではなく、情報障害の問題解決ということでは、サイン計画が大きな役割を果たしています。サイン計画では、単に一つのサインをどのように設置するかという問題ではなく、人間を取り巻く環境をどのように構成し、その中にどのようなサービスシステムを連動させるかという環境デザインのテーマにつながります。ここにおいて、サインというよりはサイン環境としてのデザインのあり方が重要なテーマになります。
 本書は既刊の『サイン環境のユニバーサルデザイン』を受けて、多様な利用者の要求と評価など、これまでの研究成果や考え方を踏まえて、筆者による実践事例として実施してきた「ユニバーサルサイン」の試みと考え方を紹介するものです。さらに五感やユビキタス技術を活用したサインデザインの考え方など、国内外の事例の紹介などを含めて、今後のユニバーサルサイン実践の基本事項をガイドラインとして提示するものです。広く設計者や研究者、行政関係者はもとより、この分野を学ぼうとする人たちへの基礎的専門書として活用されればさいわいです。
 
2009年5月  
田中直人