私がまだ法政大学の修士学生だった頃、「都市」という魅力的なテーマに導いてくださったのは、当時留学帰りの若手研究者だった陣内秀信先生と、ゼミでご指導いただいた故・河原一郎先生である。おふたりは、大久保での外国人居住研究にも、当初から深い関心を寄せて励まし続けてくださった。やがて私自身のなかで、大久保をあらためて「都市」という切り口から語ってみたいという想いがつのるようになり、2006年に博士論文として法政大学に提出した。本書は、この論文を大幅に構成しなおし、同時に06年以降の大久保の変化を加筆し、研究をより深化させてまとめたものである。
さて、ここで「まち居住研究会」について紹介したい。大久保での調査研究は、外国人居住の実態調査をしようという呼びかけに賛同して集まっていただいた林泰義氏や内田雄造先生をはじめ、研究者・専門家の方々と90年に結成した研究チームからはじまった。そして私を含む4名が、その後も外国人居住研究を継続する目的で92年に「まち居住研究会」を立ち上げた。以降01年まで、大久保で外国人居住研究やニューカマー施設の立地について定点調査を行ってきた。本書の第2章は、私が90年に新宿区で実施した最初の外国人居住調査をはじめ、「まち居住研究会」が、90年代初頭における外国人居住の実態を明らかにした『外国人居住と変貌する街』(学芸出版社、1994)と研究会によるその後の調査研究をもとに再構築したものである。第3章も、研究会に多くのデータが蓄積されていたからこそ執筆することができた。本書に掲載した写真のうち2001年以前に撮影された写真の出典をみれば、「まち居住研究会」の存在なくして本書があり得なかったことは明らかである。その後「まち居住研究会」は、98年から地元のマンション管理組合役員や不動産業者、留学生等にも参加を求めて研究や地域活動を行うようになり、大久保での人脈が広がっていった。
初代研究会メンバーであった塩路安紀子氏、小菅寿美子氏、松井晴子氏をはじめ、現在も共に研究会の活動を支えている太田多圭子氏、荻野政男氏、笠原秀樹氏、金沢祐吉氏、山本重幸氏、渡戸一郎先生など、他の何者にも代え難い研究会の仲間たちには深く感謝している。さらに地元で生まれ育った川村千鶴子氏、木村妙子氏、森田忠幸氏をはじめ、地域の方々からは折にふれて貴重なお話を伺わせていただいた。
本書のもとになった学位論文をまとめることができたのは、常に大久保研究の重要性を指摘し、よき理解者として力強く指導してくださった陣内秀信先生によるところが大きい。また高橋賢一先生をはじめ、論文の副査をお引き受けいただいた諸先生からも、示唆に富んだ多くの助言をいただいた。
さらに本書を出版するにあたっては、学芸出版社の前田裕資氏と中木保代氏にご尽力をいただき、大変お世話になった。本書は、「まち居住研究会」の仲間たち、大久保の人々、ご指導をいただいた方々、そしてここにお名前をあげることができなかった多くの方々にご協力をいただくことで導きだされ、かたちをなすことができた。これまでお世話になったすべての方々に、心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
2008年9月 稲葉 佳子
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