失敗に学ぶ中心市街地活性化
英国のコンパクトなまちづくりと日本の先進事例

はじめに
 中心市街地活性化という言葉は、多くの日本人にとっては目新しく、いわゆる「まちづくり三法」が制定された2000年頃から盛んに使われるようになったが、最近ようやく浸透してきた感がある。しかし、市民に中心市街地はどこですかと聞くと、多くの人は駅前と答えたり、商店街と答えたりする。したがって、中心市街地活性化はここを活性化することを意味するが、駅前は通勤・通学で通過するだけのところであり、また、多くの人は既に商店街を利用しなくなっているので、利用しない商店街の活性化を政策の優先課題とすることに疑問を感じている市民が多い。そもそも、なぜ中心市街地を活性化しなければならないのかが、あまり理解されていない。
 中心市街地を活性化しなければならない一番の理由は、それがコンパクトなまちづくりに貢献するからである。わが国が直面する少子高齢化・人口減少、環境・資源問題、国・地方を問わない厳しい財政事情に適切に対応する方策がコンパクトなまちづくりであり、その実現を目指す有効な手段が中心市街地活性化である。既に、わが国はかつての人口増の日本とは根本的に異なった社会に突入してきていて、今までのような拡散的なまちづくりからコンパクトなまちづくりへ転換しない限り、我々は後世に大きな負の遺産を残すことになる。我々世代の使命は、次の言葉に集約されている。
 「この土地は先祖から受け継いだものではない。子孫から借りているのだ」(ネイティブ・アメリカンの格言"We do not inherit the earth from our ancestors; we borrow it from our children."
 本書は主に四つの部分で構成されている。序章および第1章は、コンパクトなまちづくりの概念、それを目指す社会・経済的背景、そしてコンパクトなまちづくりが必要な理由を説明している。地方都市で起こってきた金太郎飴の衰退モデルを提示し、旧まちづくり三法下で活性化が頓挫した理由をまとめている。
 第2章はわが国が学ぶべき失敗と成功のモデルを示している英国の分析である。規制緩和によって衰退した中心市街地の再生を、コンパクトなまちづくりを目指す郊外施設の厳しい規制と、官民のパートナーシップであるタウンセンターマネジメント(TCM)によって成し遂げた、英国の成功プロセスをまとめている。失敗から得た教訓をしっかり活かしている英国の真摯な取り組みは、わが国が学ぶべきお手本である。
 第3章はまちづくり三法の改正内容と、国の支援制度の解説である。さらに、改正で残された課題、すなわち市町村を越えた大規模集客施設の広域調整の問題と、官民パートナーシップ組織であるべき中心市街地活性化協議会の課題を明らかにしている。TCMを参考に作られた協議会だが、期待されている役割を十分に果たしているとは言い難い。併せて今後の改善方策を提示している。
 第4章から第8章はわが国の先進的な取り組み事例である。第4章は2核1モールのまちづくりとタウンマネージャーの存在で成功した長野市、第5章は市役所と商店街の連携プレーおよび車社会に対応したまちづくりに取り組んでいる宮崎県日向市を取り上げている。第6章は一貫した政策で民間投資の呼び込みに成功した青森市、第7章は超大型店の郊外出店を契機として街が結束した宮崎市の事例である。最後の第8章は、マーケティングを活用してまちのイメージアップに成功した千葉県柏市の事例である。
 本書は商業まちづくりを専門とする大学の研究者と、現場に入り込んでまちづくりを指導している二人の専門家によって書かれている。我々に共通しているのは、まちを隅々まで調査し、現地の人と会って問題を考えるという徹底した現場主義である。高い能力を持ち、まちづくりに全力で取り組んでいるが、思うように成果が出せないで苦労している最前線の人たちを応援したいという願いから本書はできた。成果が思うように出ないのはこの人たちの責任ではなく、しっかりとしたまちづくりの枠組みと制度が整備されていないからである。
 事例で取り上げた都市の調査では、多くの方々にヒアリングに協力いただき、資料を提供していただいた。一々お名前を記さないが、ここに感謝申し上げる。本書の出版では、学芸出版社の前田裕資氏、岩崎健一郎氏に大変お世話になった。丁寧に草稿を読んでいただき、仲間内だけで通用する専門用語や分かりにくい表現について、一般読者の立場から様々なご指摘をいただいた。記して謝意を表したい。

2008年7月
執筆者を代表して 横森豊雄