★タイトル


あとがき──謝辞に代えて、そして次へ

 前著『コンパクトシティ』(学芸出版社、2001)は、「そもそもコンパクトシティとは何か」について、欧米の文献を中心に資料を読み解いてまとめたものだった。その後、2002年4月から、オックスフォードブルックス大学で、コンパクトシティ研究の先導者であるジェンクス教授の下に1年間、留学した。これによって、英国をはじめとする欧州の都市の成り立ちや都市政策、市民生活をより深く知ることができたことは大きな収穫だった。帰国してから研究会やシンポジウム、あるいは雑誌で「コンパクトシティ」について、書いたりしゃべったりすることが多くなった。そして、まちづくり三法の改正(2006.5)によって、スプロールの抑制と中心市街地の活性化を進めるための都市像としてコンパクトシティが位置づけられ、政策形成に一定の寄与ができたことを実感している。
  今回、前著以後に書いてきた多くの文章を再構成して本書をまとめることで、この間自分が何を考え、論じてきたかを振り返り、整理することができた。コンパクトシティという言葉は、欧州と同様に日本でも強力なイメージを与えている。これまでの急速な成長社会、都市化過程に対応した都市計画、都市施策からの転換方向を誰にでもわかりやすく理解させてくれる都市像であるといえよう。しかし、わかりやすいことと実際にそれぞれの地域で具体化することとの間には大きな距離がある。全国の自治体では、新たな施策の理解と具体化が進められようとしている。「コンパクトシティ」あるいは「コンパクトなまちづくり」という言葉だけの理解にとどまっている状況も一部に見られるが、新たな都市像の実現に向けての挑戦も、各地で始まっている。本書をまとめることができたのも、そうした実践、実績の成果に多くを負っている。
  一方で、専門家による計画手法やアーバンデザインの提示が遅れているように思われる。都市計画研究者にも、学会向けの精緻な分析による論文作成だけではなく、市民や社会に対する、これからの都市や地域のあり方についての創造的提示がいま、求められている。
  前著をまとめるときには、文献や情報の乏しさが大きな壁だったが、今回は逆に情報量の多さが苦労の種であり、ある面では贅沢な悩みでもあった。インターネットを立ち上げGoogle(グーグル)にキーワードを書き込んで、マウスをクリックすれば国内外の膨大な情報・資料をたちまちのうちに眼にし、手にすることができる。Amazon.com(アマゾン)に注文すれば外国の書籍が数週間の内に届く。新しい出版情報もメールで送られてくる。名城大学都市情報学部図書館の藤塚さんに頼めば、内外の文献を取り寄せてもらえる。私がしている情報へのアクセスは誰にでもできる簡単なこと。
  世界中で、そして日本でも状況は変化発展している。本書でとりあげたテーマは幅が広く、また奥が深い。関連するいろいろな動向をすべて知ることなどできない相談だが、重要なことや出来事を見逃しているのではないだろうかと、絶えず不安になる。たくさんの情報をどのように関連づけて理解すればよいのか。何が大事なことなのか。何が真実なのか、どう評価すればよいのか。研究テーマとして探求すべきことは何か。複雑な現実を多様な価値観・評価軸で理解しながらも、自分がわかったことや提案をおそれずに述べ、多くの方に、これからも伝えたい。
  コンパクトシティという魔法のような言葉を通して、日本や世界のいろいろなまちを訪問でき、たくさんのすばらしい人たちと出会えたことが最大の宝となっている。頭脳明晰で独創的な岡部明子先生(千葉大学)、明快で力強い矢作弘先生(大阪市立大学大学院)、幅広く深い問題意識を持つ簑原敬先生(都市プランナー)、交通と土地利用からコンパクトシティ研究を進めている谷口守先生(岡山大学)、大学時代の同窓の川上光彦さん(金沢大学)や間野博さん(広島県立大学)、そのほか大勢の研究者の皆さん、アーバンデザインの第一線で活動している後藤良子さん(UG都市建築)やコンサルタントの皆さん、地域振興整備公団時代に一緒に仕事をした都市機構や中小機構の皆さん、国土交通省や経済産業省など国の機関および愛知県、岐阜県、多治見市など多くの行政機関の職員の皆さん、そして各地でまちづくりに奮闘している多くの商業者、タウンマネージャーの皆さんと出会い、議論し交流できたことが、本書の成立には欠かせない経験となった。そして、日常的に研究活動をご一緒させてもらっている佐藤圭二先生(中部大学)、鶴田佳子先生(岐阜高専)をはじめとする戸数密度研究会、三宅醇先生(東海学園大学)をはじめとする都市住宅学会東海支部の皆さんや西山夘三記念文庫の仲間たちとの議論から多くの知見を得ることができた。お名前をすべては記せないが、これまでにお会いできた皆さんに、あつく感謝するものである。
  本書の出版については、前著に引き続き、学芸出版社の前田裕資さんにご尽力いただくとともに章構成や内容全般について適切なアドバイスをいただいた。編集作業については編集部の井口夏実さんに担当していただいたが、図版、写真、英語の引用文献などが多く多岐にわたる内容を読みやすいようにデザインしてもらうとともに、丁寧に読んで詳細な指示をいただき、ようやく出版にこぎ着けた。ここに、あつく御礼を申し上げるものである。
  なお、本書のもととなった調査研究活動に対して、筆者が所属する名城大学の一般研究費の他、科学研究費補助金(「居住地の持続可能性からみた人口減少過程での都市空間発展モデルの検討」2005-07)、大林都市研究振興財団(2001-03)そのほかの研究助成を得た。
  最後に、日常生活で支えてくれた妻昭恵に改めて感謝する。


2007年12月 
海道 清信