★タイトル


はじめに

 本書は、コンパクトシティに関心を寄せる方がたの基本資料となるように、欧米の最新の潮流と我が国の取り組み事例を踏まえて、「コンパクトシティとはなにか」「どのように計画・デザインするのか」について、まとめたものである。
  筆者は、2001年8月に『コンパクトシティ−持続可能な社会の都市像を求めて』を学芸出版社から著した。同書は、コンパクトシティに関して、日本語で書かれた最初のまとまった文献として、今日のコンパクトシティ指向の政策形成に、一定の役割を果たすことができた。本書はその続編であるが、前著出版後約6年経過し、「コンパクトシティ」をめぐる状況は大きく変化した。コンパクトシティという考え方が政府や自治体あるいは専門家、市民の間でも幅広く認知されてきたことである。特に、2006年5月のまちづくり三法改正によって、コンパクトシティが望ましい都市像として政策的に位置づけられた。さらに、再開発事業など中心市街地活性化の取り組みが目に見える形となってきたことや、都心部での人口回復といった再都市化現象も顕著となってきた。都市づくりも従来の郊外への都市拡大の時代から、さまざまなストックを活かしながら、都市空間も都市生活も「量から質へ」に転換する成熟型、再生型の時代を迎えている。
  新たな社会経済状況、法制度や政策方向からみて、コンパクトシティを都市の目標像とすることはもはや共通の理念となりつつある。しかし、具体的な計画やデザインはこれからの大きな課題となっている。前著では、基本的な理念の整理や欧米の事例紹介を中心としたが、本書では欧米の最新動向と、我が国の多くの事例も考察してより実践的な「日本型コンパクトシティ」のあり方を提起したい。
  本書では、序章で2006年に改正されたまちづくり三法を軸として、コンパクトシティとは何かについて、基本的な考え方を整理した。第T部は、近代都市の空間発展を踏まえて、都市像としてのコンパクトシティを検討し、アーバンデザインの観点から基本原則などをまとめた。第U部は、英国、EU、アメリカにおける最新の都市政策、都市開発の潮流からコンパクトシティの具体的で幅広い事例と教訓を整理した。第V部は、日本型コンパクトシティについて考察している。特に、中心市街地活性化とまちなか居住のあり方について論じている。終章では、日本型コンパクトシティおよびこれからの日本の都市づくりを提案する。
  アメリカにおいてはスプロール開発からスマートグロース政策への転換が、地球環境問題への世界レベルでの政策合意により、さらに明確になろうとしている。従来から環境重視の都市政策を進めてきた欧州連合(EU)は、東への加盟国の拡大のなかで持続可能で多様な都市圏のあり方を追求している。都市再生の取り組みが成果をあげている英国では、ニューレーバー(新しい労働党)を旗印に掲げて、参加と経済成長の両立をめざした計画システムの改革を進めている。我が国でも、従来の都市化時代に対応した拡張・拡大型の都市計画、都市づくりから、成熟型、再生型の都市づくり、まちづくりへと転換しようとしている。しかし、我が国の都市社会に「計画文化」はまだ十分定着しておらず、成熟型の計画手法は模索中である。都市、地域の空間計画やアーバンデザインをになう人的資源と社会的ニーズは十分ではない。
  コンパクトシティには原則はあるが定義がないといわれる。しかし、それは対象となる都市、都市圏の状況がさまざまであるからだ。中小都市と大都市圏ではコンパクトシティあるいはコンパクトな都市空間のあり方は異なる。都市規模だけではなく、歴史・文化、自然条件などでも、望ましいコンパクトシティの都市像、計画論に違いがある。
  経済学者宮本憲一は都市経済・都市問題・都市政策の3層構造で都市を捉えているが、筆者は「都市空間・都市問題・都市計画とデザイン」という関係で課題を把握して、都市空間をより望ましい方向に改善していきたいと考えている。
  経済、社会、環境、生活などさまざまな分野で、我々は時代の大きな転換点に立っている。コンパクトシティはそうした時代の新たな潮流を象徴する都市像である。原理は単純であるが、具体的な適用は多様で工夫と努力が求められるのは、これまでの都市づくりと変わらない。答えは簡単には手に入らないかも知れない。しかし、我が国におけるこの数年来の新たな都市づくり、まちづくりの潮流には大きな可能性を感じる。本書では世界と日本の最新の潮流と幅広い学問成果を取り入れて、基本的な視点や考え方についても掘り下げるように努めた。本書が、さまざまな分野や地域で真に望ましい、これからの都市のあり方を模索している市民、行政、専門家、学生・大学院生の皆さんにとって、お役に立つことができれば幸いである。

  2007年12月 
海道 清信