ワークショップ


書 評
『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2007.9
 「まちづくり」という言葉は住環境改善の運動、反公害運動、日照権運動など住民運動として使われてきた言葉であることはよく知られる。こうした運動の一定の成果の上に今日では住民運動にとどまらず、行政主導型の都市整備にも使われるようになった。こうした「まちづくり」の方法論として、注目されたのが、ワークショップである。本書は、実際に各地でまちづくりにかかわり、ワークショップを数多く体験してきた著者の体験に基づき、わかりやすく解説されている。
 例えば、普通に行われる住民参加の方法として公聴会もある。しかし、公聴会のような一方通行の説明会でなく、住民の主体的参加による実質的な方法論として注目されたのが、ワークショップである。ワークショップは特段新しいものでもなく、人類の知として、蓄積されてきた集団の力を発揮する方法である。人間ひとりよりも三人寄れば文殊の知恵というように、集団の想像力を生かす工夫は、代々、様々になされてきた歴史がある。
 こうして、ワークショップが普及するにつれて、混乱も生じている。「ワークショップさえすれば住民参加」というように受け止められて、ワークショップが住民参加の免罪符のように使われるという問題。その場に参加した住民は盛り上がり、大いに期待したものの、その後の展開がなく、より失望感を大きくするなど。
 競争原理的な考え方がはびこる今日、他者との討議や協働の営みによって新しい価値を生み出していく住民参加型のまちづくりをどのように進めていくか、ワークショップをめぐる様々な問題意識に応えてくれる1冊。
(清本多恵子)

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2007.5
 本書はワークショップを、人類の知として蓄積されてきた未来を創造する方法として捉え直し、ホンマモンの住民参画のまちづくりのプロセス・デザインのバイブルのような中身をはらんでいる。その特徴としては、@21世紀対応型であること、A手法と原理の二本立てであること、Bシステムとドラマの両立であることにある。
 先ず、21世紀対応型という意味では、自分らしさから離れた感のする疎外が社会全体に深化した状況に対して、人間的・空間的・制度的に疎外を克服し、住民主体のまちづくり実現の方法としてのワークショップが位置づけられている。加えて、今日安易な「紋切り型」の横行によるワークショップの危機を越えるために、ワークショップは人びとの「やる気」づくりを通して、「個人の創造性が集団内で相互に作用しあうことから集団の創造力を発揮していく方法である」ことを肝に命じ、その実践的展開の具体的内実を緻密に論じている。
 次いで、手法と原理の二本立てという点では、世界的視野からワークショップの過去を重層化させつつ、未来のあり方を示している。例えば、「やる気づくり」、「意識化」の理論的淵源はクルト・レヴィンのアクション・リサーチや、ヤコブ・L・モレノの心理劇や、パウロ・フレイレの識字教育論などにあり、情動・キモチがエンジンオイルのように作動するために、演劇的身体的なワークショップが行われることを示す。ローレンス・ハルプリンのRSVP(Resource資源、Scoreスコア、総譜、Valuaction価値評価、Performance実行)サイクルの手法が発動する状況の解明も示唆的であり、現代的手法への根拠を明らかにしている。「主体が目覚める」「創造的に前へ進む」ワークショップの手法と原理の照応関係の読みは鋭く深い。
 いま一つ、システムとドラマの両立。ワークショップに使われるスコア(具体的手法)が30点一覧表として整理されている。そうした系統的手法のシステムは、現場の状況に応じてどのように軽妙酒脱にドラマティックに進行し、創造的提案の共有に至るかを生彩ある事例分析によって深められている。意識がワープ(飛躍)し、未来への確かな衝撃(ショック)がないとワークショップとはいえない。「ワークショップ」とは「ワープショック」なのだ。
 ワークショップで大切なことは「誰ひとり落ちこぼれ」をつくらずに、みんなが「やる気」で次なる方向感を分かち合うことである。そのことを実現するためのプロセスマネージャー、ファシリテイター、ロジスティックス(後方支援)などの役割と態度について懇切丁寧に語られており、読者はたちまち「その気」になる。なぜならば、全頁著者が大学院生のころから今日までの約30年間にわたる多様な実践と深い理論に裏づけられ、かつ自らの巧みなイラストに彩られているからである。この本には著者の肉声と住民の笑い声が響いている。住民・研究者・実践者・行政・企業などあらゆる人びとにお薦めしたい快著である。
(愛知産業大学/延藤安弘)

『建築知識』(エクスナレッジ) 2007.5
まちづくりにワークショップという手法を取り入れることが多くなったが、その定義について聞かれると、答えに詰まる人は多いのではないか。
 ファシリテーター(ワークショップの世話役)として全国で活躍する著者は、ワークショップがよく理解されず、住民の合意をとる手段と誤解されていることに警鐘を鳴らす。本書の大部分がワークショップの歴史や理論についての解説に割かれているが、これは「きちんとワークショップの意義を理解して活用してほしい」という思いの表れであろう。具体的な実践方法についても豊富な事例を交えて解説しており、これからワークショップに取り組む人にはうってつけの1冊といえる。

『環境緑化新聞』 2007.3.1
 ワークショップが日本に普及して四半世紀。まちづくりでもよく「ワークショップ」という名の住民参加型イベントが開催されている。
 しかし、「ワークショップをすれば住民参加」という使われ方は問題である。筆者は、集団の知恵を発揮する場所であり、未知なる可能性を広げ、参加者が「楽しかった」と感じる集会がワークショップであると説いている。副題は「住民主体のまちづくりへの方法論」。「ワークショップとは何か」という本質を探ることを中心に組み立てている。
 前半はワークショップを定義し、その必要性を説いた後、ワークショップの拡大とそれによってもたらされる危機を挙げ、警鐘を鳴らす。
 続いてワークショップを考える上で重要な15のキーワードを提示。また、11の事例を紹介するとともに、実際に開催する場合の手順をQ&A方式でわかりやすく解説している。
 まちづくりに住民参加はあたりまえの時代。ワークショップを正しく理解し、効果的に運営、成功させるための1冊。