マゾヒスティック・ランドスケープ


書 評
『環境緑化新聞』2006.5.1
 著者のランドスケープ・エクスプローラーは、ランドスケープ分野に携わる若手13人による有志の会。
 マゾヒスティックなデザインというのは、一方的に意味を与えるものではなく、少し控えて場所の多義的な可能性を示すものを指している。パブリックスペースは、作り手が与えるものから、使い手に獲得されるものへと変化することが求められている、というものだ。副題は「獲得される場所をめざして」。
 まず著者らは、フィールドへ出て風景をめぐる探査を始める。その収集されたパブリックタイトルは第2章「外部空間装置辞典」で紹介され、「13のキーワード」が抽出される。そしてそこから、パブリックスペースは「獲得される場所」を目指していくべきだという方向性が見えてくる。では、プランニングやデザインにはどのようなアプローチが可能か、6つのアプローチを頼りに10の提案を展開している。
 第2章で1番に登場する「ヤクルトランド」は印象的。ヤクルトレディーの空間想像力はすごい。ユーモア溢れる一冊。

『庭』(龍居庭園研究所)2006.7
 表題を見て「?」と思った。一般に「マゾ」というと、「他者から苦痛を受けることによって満足を得る」ことを指すからだ。これがランドスケープと、どのように関わるのだろう。そんな思いを持ちながらページをめくった。
 この本が提案するのは「都市風景をパブリック・スペースの可能性から捉え直すことで、新たなランドスケープの方向性」を探ることである。従来のパブリック・スペースは、作り手が与えるものであったために、今、限界が見えている。なぜなら、人々の行動や空間は、想定外の新しい方向に展開し始めているからだ。
 「風景探査」というフィールド・ワークが多彩で新しい「パブリック」の姿を浮き彫りにする。
 「公空間を侵食する」軒先園芸や路上ディスプレイ、ガードレールを利用した藁の天日干し、高架下の青空将棋、木陰のレストスポット、などなど、「貢献するエゴイズム」「寄生」「にじみだし」「個別化」など「十三のキーワード」によって導き出されるのは、ユニークで微笑ましい公共スペースの使われ方、あるいはその可能性を秘めた空間だ。
 人々は実にたくましく、あるいはごく自然に、パブリック・スペースを自分のものにしている。そこに見られる人間臭さが、無機的な公共空間に生命を与えているような気がする。「使い手に獲得される」パブリック・スペース。場所のあり方を一義的に決定するのではなく、そこに「多義的な可能性」を求めるのが「マゾヒスティック」なデザイン・アプローチなのだ。