歴史的遺産の保存・活用とまちづくり 改訂版


はじめに
改訂版の刊行にあたって
三舩康道
編集の方針
  本書の第一版は,1997年に大河直躬の編集により刊行されました.姉妹本としての『都市の歴史とまちづくり』は1995年に出版されています.
  本書は出版から9年経過し,当初目指した使命をほぼ果たしましたが,同様の本がなかなか無いこと,そして各著者から時機に適した改版への希望が多く,改訂版を刊行することになり,三舩がまとめることになりました.
  しかし,時機に適した内容に改版するとはいえ,本書は新たな事例を紹介することを目的とするものではなく,基本的な考えを示し併せて大きな流れについて紹介することを目的としているため,内容については大幅に改変するというよりは,基本的な方向性を守りつつ,新たな流れを紹介するという考え方で編集したものです.
  第一版を出版した頃は,「まちづくり」に歴史ある建物や遺跡の保存と活用が大きく取り上げられるようになり始めた頃であったと思います.それから9年経過し,いまや歴史ある建物や遺跡の保存と活用は「まちづくり」の基本的な手法の一つとして定着しています.この変化には目をみはるばかりです.
  このような変化を生み出す大きな契機となったのが,1996年秋の文化財保護法の改正により創設された文化財登録制度です.それから9年経過し2005年の10月には,登録された登録有形文化財は5000件を超えるまでになりました.この増加する勢いは,重要文化財の指定件数もはるかに超え,今後10年以内に1万件を超えることは確実と思われます.
  加えて,NPOの活動が変化を生み出す大きな契機になりました.地域の歴史ある建物の保存・活用にはNPOの活動が大きく関わるようになり,今後は主役になる可能性を秘めています.
  また,このように歴史ある建物の保存・活用が増えてきますと,建築基準法との関係が問題になります.建築基準法は1950年に制定されているので,それ以前の建設が大部分である歴史ある建物には,基準法に合致しない既存不適格建築物の比率が高い状況です.
  つまり,既存不適格の歴史ある建物を,どのようにして安全性を確保しながら保存・活用するかが課題となります.そのため,各地域の実情にあわせた条例の制定など,法規制についても新たな取り組みが試みられています.
  そして,これからの流れには2004年に制定された景観緑三法(景観法,景観法の整備等に関する法律,都市緑地保全法改正)の影響が予想されます.これまでの歴史的遺産の保存・活用では,文化財建造物や伝統的建造物群保存地区が中心となり文化財保護法が主役のように存在していましたが,これからは対象となる建物や地域が広がり,景観緑三法も大きな役割を担ってくると考えられます.そのようなことにも配慮し,今回の改訂版では関連するパートでそのことに触れています.
改訂版の構成
  第T部のタイトルは第一版と同じ「これからの『まちづくり』と歴史的遺産の保存・活用」です.構成は第一版と同じ構成です.著者も同じですが,内容は最近の動向も含めより充実されたものとなっています.
  第U部のタイトルも第一版と同じ「歴史的遺産の活用・再生の手法」です.しかし,現在の新しい課題に対応するために構成を変え,執筆者も一部変更しました.そして参考文献も充実させました.
  具体的には,今日的な話題として「町家」と「茅葺き」を取り上げています.そして,最近の動向から「NPOの活動」についても取り上げ,さらに活用を支えるという観点から「防災」についても取り上げています.そのため,第一版で取り上げた「町場の建築家の保存・修復体験」及び「阪神・淡路大震災で被災した民家の修復・再生」については紙面の都合で割愛しています.
  しかし振り返ってみますと,内容の充実を図ったとはいえ,まだまだ取り上げたい項目が思い浮かびます.歴史的資産を発掘し,整理するための「データベースへの取組み」などです.これらについてはいずれ取組みたいと思っています.
2006年2月