参加型・福祉の交通まちづくり


はしがき

 交通は人々の暮らしを支えるものでありながら、まちづくりにおいては長らく忘れられてきた。買物に行くにも、学校・職場、病院、銀行に行くにもすべて移動が必要になる。しかし、新しい立派な施設ができるたびに、不便な暮らしを強いられる人々がいた。新しい建物をつくる場所がないといって、駅から遠くの不便な所に建てられたのである。「立派な施設をつくりました。素敵なサービスを提供します。しかし、皆さん、勝手に来てください」といったように。

 施設自体は優れた福祉サービス機能を発揮するものの、それを利用できなければ人々の福祉の向上には貢献しない。利用を可能にするもの、それは交通である。

 世の中には、多様な人々が存在する。車を使えない人、車いすでないと移動できない人、目が見えない人、耳に障がいがある人、話せない人、文字が理解できない人など様々である。多様な人々の存在に気づき、すべての人たちの幸せを願う時、みんなが不自由なく移動できる環境整備の重要性に気づく。

 施設整備を中心としたまちづくりは、充実した交通サービス機能を備えることによって、より充実したまちづくりになる。これが「交通まちづくり」である。交通サービス機能と各種施設サービス機能をドッキングし、人々の潜在能力の向上を図るまち、それが「福祉の交通まちづくり」である。ここに「こころ」を入れて、すばらしいまちづくりを目指す。

 本書は、「参加型・福祉の交通まちづくり」と銘打った。福祉の交通まちづくりは、一握りのまちづくりのプロによってできるものではない。その道のプロは、その道のプロでしかない。多様な人々の存在に気づかないことが多い。車の乗り上げ防止のために歩道を高くしたり、排水のために横断勾配をつけたりする。車いすの人にとっては、それが大きなバリアとなる。また自分の担当分野に留まってしまうことが多い。歩道や駅舎をそれぞれバリアフリー化しても、つなぎ目にバリアが残ったり、道路側と駅舎側での情報提供が不連続で施設ごとに分断されてしまうといった場合である。

 そこで参加型まちづくりが生まれる。まず多様な人々のニーズの把握から始まり、ニーズの実現のために努力を重ねる。ニーズどうしの折り合い、事業者との折り合いなど様々な折り合いを経て、初めてかたちとなって現れる。市民と進めることが基本となる。

 これらの問題意識をもとに、交通バリアフリー法の推進を図っている交通エコロジー・モビリティ財団、国土技術研究センターと土木学会土木計画学研究委員会STサービス・交通バリアフリー計画研究小委員会が協力して、市民と進める福祉の交通まちづくりの実現について研究に取り組み、本書を取りまとめた。

 参加型・交通まちづくりは、始まったばかりである。交通バリアフリーの実現に携わる人たちは、日々、試行錯誤を重ねている。本書がその道しるべとなればありがたい。また、読者の皆さんから忌憚のないご意見をいただき、本書のブラッシュ・アップを図りたいとも考えている。

 最後に、多忙な業務の傍ら、精力的に本書をご執筆いただいた執筆者、編集・取りまとめにご尽力いただいた事務局の方々に、心から感謝を申し上げます。合わせて、なかなか筆の進まない私たちを粘り強く支えてくださるとともに、校正に多大なご尽力をいただいた学芸出版社の前田さん、中木さんに謝意を表します。

2005年1月
編集委員を代表して 新田保次