『月刊オルタ』(アジア太平洋資料センター)2005. 3
ブラジル南西部パラナ州の州都クリチバ。中南米の多くの国に共通する貧困や不平等などにこのまちも直面していた。しかし、いまクリチバでは市民の98%が「まちに誇りを感じる」と答える。お金も技術もない中で、なぜこうした都市づくりが可能になったのか。本書は、クリチバの都市計画と実現のプロセスをわかりやすく紹介する。単にまちを美しくしたり機能性を高めることは、どこの都市でも実践されている。クリチバの成功の秘訣は「都市は人間のためにあるべき」という強い信念にある。ごみを集めて野菜と交換するプログラムや、「花通り」と呼ばれる歩行者専用道路など、その発想の自由さと、実現に尽力する人びとのエネルギーに圧倒されながら読んだ。
(内田聖子)
『ラテンアメリカ・レポート』(アジア経済研究所)vol.21 No.2
本書は、1992年にリオデジャネイロで開催された国連世界環境会議以降、世界的に注目を集めるようになったブラジルのクリチーバ市の都市政策について解説した書である。内容は同市の概要、都市政策、成功の秘訣、将来展望、日本の都市計画への提言という五つの章から構成されている。また、元市長と環境局長へのインタビューとともに多くの写真や図表が掲載されており、一般読者にもわかりやすい内容となっている。
都市計画を専門とする著者は、クリチーバ市の30年以上におよぶ都市計画と環境計画の内容と変遷を詳しく整理している。そして、依然として克服すべき課題は残るものの、同市の成功の秘訣として、強い政治的意思と実行力をもったリーダーおよび専門家集団の存在、政策の継続性と統合性および柔軟な遂行システム、人間を中心に位置づける発想、自発的な市民参画などを指摘している。最後に、これらの指摘をもとに日本の都市計画の問題に関する著者の考えをまとめている。
本書の問題点として、呼称を含めブラジルに関する誤った情報が散見されること、事例および人物に対する評価とその基準が曖昧で主観的と感じられる箇所や表現がみられること、「社会都市」(A Capital Social)を自称するクリチーバ市を敢えて「人間都市」と称する明確な説明がなされていないことなどを指摘できる。
日本人がブラジルから一般的に連想することは、サンバ、サッカー、コーヒー、治安の悪さなどであろう。しかし、実際のブラジルには、このような固定的なイメージからだけでは理解できない非常に多様な現実が存在する。このあまり知られていないブラジルの多様かつ先進的な現実の一つを一般書として日本で紹介し、われわれに都市の生活環境に対する再考を促した本書の功績は一読に値するといえる。
(近田亮平)
『地域開発』((財)日本地域開発センター)2004. 10
クリチバというブラジルの都市をご存知だろうか。ブラジルといえばサンバ、都市計画なら完全な計画都市であるブラジリアを思い浮かべる方が多いのではなかろうか。本書は「都市計画は人間のためにある」という強い信念とともに、総合性、戦略性、そして実効性に富んだクリチバの都市計画を紹介している。
クリチバの「花通り」というメインストリートから一夜にして車を排除し、歩行者天国を作り上げたというエピソードが実に興味深い。「花通り」商店街の店主たちの反対を押し切り、行政が強引に行ったことであったが、その後の通りの歩行者数と売り上げの増加という効果をもって市民のコンセンサスを得たのである。
そのような計画を実行し、優れたリーダーシップとともに人間の視点に立った都市を築いてきた元クリチバ市長ジャイメ・レルネル氏と、市職員として公園や環境の仕事に携わったヒトシ・ナカムラ氏のインタビューを読むと、実際の都市計画に携わるものにとって必要なものが見えてくるはずである。
そしてクリチバ市民の98%が「街に誇りを感じる」と答えている、その理由は本書を読めば理解できるであろう。
『建築士』((社)日本建築士会連合会)2004. 9
この本の魅力は、まず、成功の秘訣は「金のないことである」と市長が語りかけ、夢はみんなの知恵で花が開くと展開するサクセスストーリーが、ちりばめてあることにある。しかも、時に、日本がヒントになったとも書かれてあり、思わず口元がほころびる。
では、いくつかを紹介しよう。
表題の「人間都市」の人間とは20世紀前半に確立した自家用車主役都市への挑戦である。歩行する人間復権のために公共交通を成功させようとの意味である。地下鉄これは高くつく。バスは遅いし、時間が不正確、でも、これを克服する案で、ひとつ、1軸のみやってみる。大きな手術でなく、小さなプロジェクトで…、市長レルネル氏はなんとこの方法を東洋の「鍼灸法」の要領という。やがて、この効果は全身に波及した。「先ずは始めることだ」の事例として、公園緑地を増やし、芝生を植えたが、この維持費が嵩む。ところが「羊にやらせればよい」という案が出た。羊飼いは都職員だが、なんとものどかな都心風景。そして、著者は、まるで一休さんの頓知に似たアイデアと表現する。
最後に、建築士として、何よりも嬉しいのは、この世界の都市計画家が熱い目を注ぐクリチバを30年にわたって完成させた市長が実は工学部建築と都市計画両方を卒業した技術者だということである。その上、施政者として、優秀な人材を抜擢しながら、柔軟に市民参加を促していく姿は、理論と技術そして実践に通じるヒーローに見えて楽しい。ぜひこ一読を。
(吉田あこ)
『ラテン・アメリカ時報』((社)ラテン・アメリカ協会)2004. 8
ブラジル南部パラナ州の州都であるクリチバ市は、30年にわたって一貫した都市計画を実践してきた。きめ細かなゾーニングなどの土地利用・住宅政策を、都心部への乗り入れ制限に代わる放射状軸と環状のバス専用車線とチューブと呼ばれる独特の乗り換え停留場を組み合わせた効率的な交通政策と整合性を図ったことはよく知られている。さらに緑地の配置、町並みの色を指定するなどの景観と歴史的建造物の保全に配慮した都市デザイン、ゴミのリサイクルを貧困層居住地区の住民の分別ゴミと周辺農家の余剰農産物との交換により促進するというアイデアなどによって、人口が約60万人から160万人に膨れ上がった現在においても、都市政策の成果が各所に見られる。しかも一方では、地場産業の育成やインダストリアル・シティの創設など、雇用機会を創出する産業の誘致にも力を注いできたのである。
なぜブラジルの一地方都市が、このような魅力ある都市造りに成功したのか? 日本の都市を住みやすくする教訓は何か? 都市のあり方を考える上で大いに示唆に富んだ考察であり、地方自治体など多くの関係者に是非読んで欲しい1冊である。
(桜井敏浩)
『新建築住宅特集』((株)新建築社)2004. 7
本書は、ブラジルの都市クリチバの30年間におよぶ都市政策に関して論じたもの。クリチバ市は1966年にマスタープランを策定して以来、ジャイメ・レルネル市長を舵取り役として、土地利用政策や環境政策、交通政策、都市デザイン政策、住宅政策を整合性をもって実践し、豊かな緑地空間をもつ優れたアメニティの都市空間を具体化させた。クリチバの都市政策はなぜ成功したのか、そのひとつとして、根底に「都市は人間のためにあるべき」という強い信念があることが挙げられる。レルネル元市長、中村ひとし元クリチバ環境局長へのインタビュー記事も載せられており、日本のこれからの都市政策を考えるうえでも学ぶべきことの多い一冊。
『地方自治職員研修』(公職研)2004. 7
都市計画に基づくブラジルの都市、といえばブラジリアが有名。しかし、大いなる失敗として知られるブラジリアに対し、クリチバはヒューマンスケールのまちづくりを成功させた希有な都市である。一地方都市であるクリチバが、先進都市でも解決できなかった都市問題や環境問題を都市計画という手法で解決できたのはなぜか。まちづくりにかけた市長・職員・市民の情熱が伝わる一冊。まちの礎を築いたレルネル元市長の「都市は人のためにあるもの。自動車のためではない」という警句が心に響く。
|