森が都市を変える

書 評

『地域開発』((財)日本地域開発センター)2004. 8
  大量生産・大量消費による20世紀の「自然征服型」文明は地球規模の環境問題に直面しており、地球と共生する文明への転換が求められている。本書は、人々に安らぎや楽しみをもたらす植栽等の「自然」とではなく、自然の生態系である「野生」と都市とが共生するという新しい文明のあり方を、著者が関わった3つの森づくりの紹介を通じて展望しようとしている書である。
  「第一の森」には「生物の多様性と自立する森」をテーマとして再建された万博記念公園の「野生の人工の森」を取り上げ、パビリオン跡地で失われた自然人工的に再生する取り組みが紹介されている。「第二の森」である大阪の生駒の森では、都市圏の巨大化で消滅の危機にあった森を「府民の森」として保存・再生するプロジェクトを取り上げている。「第三の森」の「新梅田シティの森」では、将来の「環境創造都市」のモデルとして、森を核とした高層ビルの再開発事業を紹介している。

『GREEN AGE』((財)日本緑化センター)2004. 6
  1968年、著者が大阪で造園設計事務所を立ち上げ、2001年に身を引き、現在鳥取環境大学教授として「地球環境問題を視野に入れた新しい環境デザインの分野を築くために」さまざまな活動を展開している。特に造園家として30年間にかかわった仕事は1,200件、森と都市との共生を試みたランドスケープは高く評価されてきた。
  本書は著者が従事した「森と核とする文明」3つの森をテーマに「森」とはなにかを語りかけていく。その視点は、森が存在しなければ人類は存在しない。森は人間の存在の上位に位置づける必要がある。地球生命にとってかけがえのない共通の存在が「森」である、というのである。本書のテーマである「都市に森をつくる」とは、21世紀に予想される地球環境問題を解決する鍵を握っていると論じている。
  「第1の森」は万博記念公園に再建された「野生の人工の森」である。大阪万博跡地に「生物多様性と自立する森」をテーマに「万博記念公園の森」がつくられた。100haの裸地に約60万本の樹木を植栽、30年を経過した人工の森は、人類が持続的に生きる知へのパラダイム転換を促すであろうという。
  「第2の森」は、大阪市街から約30キロ、生駒山系は1950年代から大阪湾埋立ての土砂採集場、森林は破壊されていた。消滅の危機にあった生駒の森を「700万人の大阪府民の体の一部であるべきだ」と「大阪府民の森」として保存、蘇生させた。「森こそが都市になくてはならない存在であり、そこに居住する人々の体内に宿っている遺伝子との連続体」、「巨大都市にはなくてはならない森」として再生させた。
  「第3の森」は、大阪の都心、工場跡地に超高層建築による再開発事業、「森」を核にしてコミュニティの再建を目指した「新梅田シティの森」である。20世紀の都市開発は経済優先、利便性、快適性を追い求めてきた。それは共同体の絆を断ち切ることでもあった。新梅田シティの森は「森がなければ都市も存在しない」という「環境創造都市」のモデルとして建設された。
  本書は著者が30年にわたりかかわりつづけた3つの森を核に「森を破壊する文明から、森を核とする文明へ、森から都市と自然を再生する」、つまり「すべては森から始まる」という新たな理念を構築し、未来の若者に伝えたいという。地球環境時代に生きる新しい価値観「森を核とする文明」に夢を託しているのである。

(石井)

『環境緑化新聞』 2004. 4. 1
3つの森の現場からの報告
  木材生産の目的以外に、森林は景観や森林浴をはじめとする森林レクリエーションを提供する場として、新しい価値が生まれている。公園では失われた豊かな自然の代償にはならず、都市住民が近くに過ごしやすい自然のある空間を求めるようになったのだ。
  本書は、著者が今まで従事してきた1200の森づくりの中から「森を核とする文明」を目指す3つの森を紹介する。
  1つ目は、1970年の大阪万国博覧会跡地の「野生の人工の森」。撤去された裸地跡地から、生物の多様性に富む森に再生したプロセス。
  2つ目は、砂利採集対象となり、消滅の危機にあった生駒の森。その森を大阪府民の水源とレクリエーションの場として、保存・蘇生するプロジェクト。
  3つ目は、大阪の中心市街地の一角を占める工場跡地。太陽、水、土、植物生命なしには超高層建築といえども存続できないというメッセージを発信し、森を核にしたコミュニティの再建を目指そうとしたものである。
  いずれも、都市のそばや中心に森を存在させる事が、都市存在自体にも懸かってくることが述べられている。

『新建築』((株)新建築社)2004. 5
  ランドスケープデザイナーとして、1,200もの仕事にかかわった著者が、森と都市との共生を試みた3つの作品解説を通して「森を核とする文明」を提唱する。万博記念公園の「野生の人工の森」、都市に森の思想を注入する「生駒の森」、森を核としたコミュニティの再建を目指した「新梅田シティの森」。これらの詳細な計画と経緯が豊富な資料により解説される。本書で著者が繰り返す「森と新しい関係を築く」ということは、森に対する大いなる畏敬と21世紀の都市環境について考えさせられる。

(L)