東京再生
Tokyo Inner City Project

はじめに
東京が世界の大都市の中で強力な競争力を持つためには、経済力、情報発信力もさることながら、文化的な魅力や品格のある都市景観が求められていることは云うまでもない。しかし、現実のまちづくりでは、小規模住宅地に代表される私的所有権と都市計画という公的権力との衝突が具体的な都市整備を決定的に遅らせてきた。ちぐはぐで乱雑な都市景観には外国人の関心を引くエキゾチズムがあり、それが東京の魅力の一部であるという議論もあるが、これは大きな間違いである。近代の歴史をひも解けば、小スケールを旨とした我が国独自の庶民生活やサブカルチャーは、決してレッセフェールな環境から自然に生れてきたのではない。伝統と風土に根付いた秩序ある文脈から紡ぎ出されてきたものである。これからの東京に求められるものは、先進諸国共通の尺度で評価できる美しくて堂々とした都市空間と、その周辺に日本独自のサブカルチャーが埋もれている、小規模で多彩であるが秩序ある市民型都市空間の構築であろう。これからは大上段に都市改造を振りかざすのではなく、地域・地区レベルの身近な改善から始めてゆくことがますます重要になると思われる。

この度行われたハーバード大学と日本の大学によるアーバンデザインの合同演習は、この市民型都市空間の創成について、我々に多くの示唆を与え、実り大きいものであった。現在、我々は国策として「都市再生」の方向作りに真剣に取り組んでいる。そこでの重要な政策課題は、この秩序ある市民型都市空間をどう造るかにある。その点で、この日米が連携したアカデミックな実践的研究がよいタイミングで出版されることに大きな意味がある。これからの東京の都市像を考える場合、上海、香港のような超高層ビルの群造形としての都市とするのか、ボストンのように成長管理をした都市とするのかは大きな議論の分かれ目となる。この長期的なビジョンに関わる議論のためにも、現実を直視した地道な研究を超大学レベルで進めていってもらいたい。また、今後このような国際的なワークショップをぜひ継続的に進め、若い人たちがこれからのアジアの街づくりのビジョンについて真剣に考え、新しいアジア独自の都市論を構築する機会を確保していきたいと感じている。

伊藤 滋
早稲田大学教授
慶應義塾大学客員教授