阪神・淡路大震災 被災と住宅・生活復興


書 評

『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2004. 2
 あの阪神・淡路大震災から、ちょうど9年目になる。その後、各地で大地震が頻発し、阪神大震災は風化しつつあるようにみえる。
  被災地を歩いても、どこに大災害の跡があるのかと思われるほどに表通りは復興した。しかし一歩まちの中に入ると、新しい建物の間に空地がまだ目立っている。
  震災直後は、過剰と思われるほどの報道があったが、今ではそれもすっかり少なくなり、その後、被災地はどうなっているのかと思われるようになってきた。
  この本は4ヶ所の被災地を、定点観測した報告書である。定点観測とは、本来は気象用語で、海洋上に定期的に出かけ、気象観測することからきているが、著者は大阪から定期的に被災地を訪れているので、この本は定点観測にふさわしい。
  内容は、「住宅被害の実態」や「避難生活」など、すでに数多く報道されたものもあるが、「震災で役立った井戸の活用」などは目新しく、今後の災害に大変参考になる章もある。
  「木造密集市街地の住宅再建の因難性」では、細街路や狭小宅地が多い他の大都市も同様な問題を抱えていることがわかる。「地域に戻れていない人の生活困難と戻り意向」は、地味であるが大事な調査である。しかし調査は3年で終わっているので、その後の動きが気になるところであるが、この報告書の後編ができるそうなので今後に期待したい。
  震災はわが国のどこにでも起こる。近くには東南海、南海地震が予想される時、本書は阪神・淡路大震災を鳥瞰的に眺めることができる貴重な資料である。

(大海一雄)