健康・快適なZEHのつくり方
工務店と設計者の新常識


まえがき

 2015年に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において全世界の国々により採択されたパリ協定では、今世紀後半までに人為的な温室効果ガス(二酸化炭素等)の排出ゼロを目指すことが合意されました。産業・運輸・業務・家庭(住宅)等あらゆる分野において脱炭素化が求められており、とりわけ現在新築されている住宅は長寿命化が著しく今世紀後半においても使用されると予測されることから、ZEH等の省エネルギー性の高い住宅の普及は喫緊の社会的課題となっています。
 2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画において「住宅については、2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」とする政策目標が設定されています。経済産業省はその目標達成のために2015年にZEHロードマップをとりまとめました。さらに、2017年7月に ZEHロードマップフォローアップ委員会が設置され、2020年目標の達成に向けた進捗状況に係る評価、および2030年目標の達成に向けた課題と対応の方向性等について整理した新・ZEHロードマップが2018年に取りまとめられています。
 そのZEHロードマップで定めた施策を実現するために公募された「ZEHビルダー」の登録は7023件(2018年11月28日現在)となり「ZEHビルダー」が供給する住宅は国内の新築戸建住宅市場の過半と推定される等大きな広がりを見せています。
 ZEHの新築件数は、2017年度には約4万3000件となり、注文戸建住宅を主体として順調に増加しています。国土交通省や環境省においても、ZEHを支援する事業が実施され、3省が連携してZEHの普及に取り組んでいます。2017年4月からは建築物省エネ法に基づくBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)においてZEHマークの表示が始まりZEHの普及施策は益々加速している状況です。
 多くのハウスメーカーにおいて、温暖地におけるZEH仕様が標準ラインナップに位置付けられており、工務店等においても、標準的な仕様におけるZEHの実現が広がりつつあります。加えて、このような状況を反映し、ZEHに係る要素技術の低コスト化・高性能化も進みつつある状況です。
 これらの国のZEH普及施策や民間住宅事業者の積極的な取り組みを背景に、ZEHビルダー等の事業者を支援しZEHの普及促進を図ることを目的とし、有識者・団体・事業者の有志により、2017年に(一社)ZEH推進協議会を設立し、活動を開始いたしました。
 2017年度に約4万3000件と急速な普及を見せたZEHですが、一方で実績のなかったZEHビルダーが全体の過半を占めると報告されており、新築注文住宅のZEH率50%超という2020年の政策目標の実現に向けては大きな課題があります。2018年に公表された新・ZEHロードマップにおいては、ZEHビルダーの主な題として「建築技能者を育成できなかった」「消費者理解を得る提案・営業ができなかった」等が指摘されています。
 このような状況を踏まえ、本書では、とりわけ新築注文住宅に掛かる事業者の「建築技能者を育成できなかった」という課題を解決するために、健康・快適なZEHのつくり方に関する基礎知識から、差別化できるワンランク上のZEHの設計手法までを一流執筆陣がわかりやすくまとめています。ZEHビルダー、ZEHプランナーの方々がより積極的にZEHに取り組むために、本書がお役に立てば幸いです。


一般社団法人 ZEH推進協議会 代表理事  小山貴史