住宅の結露防止


まえがき

 結露は簡単な物理現象であり、工学的には結露を防止することは可能であるということは常識である。にもかかわらず、結露の問題は一向に解決されていない。古くて新しい問題と言われる所以である。結露に関わってきた研究者・実務者がこの結露問題を共通の認識のもとで系統的に整理し、結露問題を解決する対策を明確にしたいという趣旨で、私的な集まりとして防露設計研究会が発足した。
  本書は、この研究会の成果を建築技術者から研究者まで幅広く利用されることを目的として、出版することとなった。内容は、実際に結露対策に長年携わってきた事例・対策をもとに得られた経験と、長年結露について研究してきた成果をもとに、いかに結露対策を行なっていけばよいのかを中心テーマとして、疑問や問題点を出し合い徹底的に議論した結果を基礎から応用へと整理してまとめたものである。それらを以下の7章とデータ編で構成した。

  第1章は、結露現象の起因となる空気中の水分について、結露の種類・発生部位、地域別結露発生の特徴などを概説し、結露の基礎知識としてわかりやすく述べた。
  第2章は、結露の発生分類・部位における結露被害の内容と一般的な対策について述べた。
  第3章は、結露被害が発生した場合に、現場において、観察に基づいた主原因の推定とその対策、さらには被害状況と対応させて検証実測箇所がわかる結露対策判定カルテおよびその具体事例について述べている。
  第4章は、結露を防止するための各種の防露手法について分類・整理し、それぞれの手法について事例をもとにその効果を具体的に説明している。
  第5章は、建物の設計段階から防露仕様を決定するにあたり、防露評価基準の設定に基づいて、地域・室内条件・防露手法・検討方法を決定・選定しながら求める手順について述べている。さらに、集合住宅と戸建住宅について具体例をもとに説明している。
  第6章は、結露の原因となる住宅の温湿度の予測が可能な材料内熱湿気移動・室内温湿度変化の理論について説明するとともに、自然換気計算法も含めて、結露計算法を示している。さらに、これらの計算法を用いて、集合住宅を対象として住宅の結露発生状況の把握と防露手法の具体的効果について述べている。
  第7章は、住宅の温湿度は住宅各部位の構成材料の熱湿気物性値に大きく左右される。また、結露対策に有効であるといわれている断熱材、吸放湿材の熱湿気物性値は非常に重要である。この物性値の湿気特性と測定法について述べている。
  巻末のデータ編は、第7章に示した測定法に基づいて測定されている代表的な建築材料の熱湿気物性データを示している。さらに、日本の代表的な地域の年間の温湿度・直達法線面日射量の時間変動も示している。

  以上、7章に分けて、住宅の結露に関連する基礎的事項から防露設計までわかりやすく、なお、実用的であることを心がけて整理した。また、結露問題を一般的な対策法を述べる定性的表現だけでなく、できるかぎり具体例をもとに定量的に検討できることに腐心した。
  本書が結露に関心のある、また携わる多くの読者、研究者、実務家の方に大いに参考にされ、利用されることを期待し、また忌憚のないご意見をいただいて、さらによりよい防露設計法を確立するために、今後も研究を進めて行きたいと考えている。

防露設計研究会