ガラスの建築学
光と熱と快適環境の知識


はじめに



 1980年代から今日にかけて、我が国では建物外皮を構成する部材としてガラス素材を使用した建物が徐々に増え今日を迎えています。これらの建物は光環境に恵まれ、明るい室内、シーズンによっては暖かく快適な居住環境を提供してきた反面、晴天日などでは明るすぎる室内、暑すぎる温熱環境など光環境や熱環境の調整なくして、ガラス建築は成立しないことも経験的に把握してきました。従来の建物は、建築・構造・設備の専門家が各分野で専門とする縦割りの組織を形成していましたが、太陽放射の影響を瞬時に受けるガラス素材で構成された建物は、設計者や研究者が各専門分野と他分野との境界領域に精通することも必要であり、また、これに関連する資料の整理も必要であると考えました。そこで日本建築学会環境工学委員会建築設備小委員会の中に「ガラス建築WG」を設置し、各専門分野の方々に委員をお願いし1999年度から2年間に渡って研究活動を開始し、その成果を「ガラス建築の意匠と設備/技術」としてまとめ、2001年3月、建築設計者、環境・設備の設計者、施工関係の方々、メンテナンスを専門とする方々、学生など多数の方々にお集まりいただき、日本建築学会においてシンポジウムを開催いたしました。
  シンポジウムの反響に対する手応えに呼応して、我が国では、ガラス建築に関する書籍で、計画の段階から設計・施工、竣工後の運用・維持管理を含む一連のものはなかったため、ガラス建築の「光環境と熱環境、日射遮へいとその調整」の三位を一体とした、技術者にとって実学書となる書籍を編集することに致しました。
  そこで、このWGは、2002年度から企画刊行委員会に移行し、ガラス建築WGでまとめました報告書およびシンポジウムの結果を受けて、「ガラスの建築学−光と熱と快適環境の知識−」をテーマとして2年間をかけて資料の収集、整理、解析を基にガラス建築の計画から設計・施工・維持管理までが判る書籍を出版することに致しました。書籍のタイトルを「ガラスの建築学」と致しました理由は、建築分野の学生・専門家にとってもわかり易く、一般の読者にとっても「ガラス建築」の1から10までが容易に理解できる教科書的な書としたことに起因しています。
  本書の構成は、まず第1に「ガラス建築の小規模・中規模・大規模のかたち」について口絵で示し、本書で示すガラス建築とはどういう建物を指すのか理解をいただくことを目的としました。続いて第1章ではガラス建築(ガラスを多用した建物)が、ガラスの発見からどのような経過をたどって今日に至ったかを「進化するガラス建築」としてまとめています。また、2章から7章にかけては、「ガラスの性質あれこれ」「建築材料としてのガラスの作りかた」「ガラスと窓の構法」「光と熱の環境制御」「ガラス建築の断熱と結露防止」「ガラス建築の保守管理」とし、ガラス建築の計画段階から設計・施工に関する構法・運用上の維持管理・ガラスのリサイクルなどについてまとめました。また、最後に付記致しました「資料集」には「ガラス建築年表」「防火・防火設計に関する法規とその他の関連法規・指針」「ガラスを用いた開口部の安全設計指針」、などについて実用的な事項を取り上げ、現業に適した資料を掲載しました。また、最後の資料は、「ガラス建築WG」が委員会を設立いたしました折に、ガラスがどのように使われているかをアンケート調査した調査結果についてまとめたものです。このアンケート調査は、調査件数650件、これらを設計された250社程度の設計者の方々に、我々が出版物から調査・作成いたしましたガラス建築データベースを個々にお送りし、内容のチェック、未記載事項の加筆、写真や平面図などの提供をいただきました。ご協力いただきました方々の所属を巻末に記し謝意を申し上げます。また、これらのデータの整理は、研究室の山口研究助手および当時研究室の学生であった肥沼由果利、島田綾子、元田智穂、山崎由貴のご支援をいただきましたことに深謝いたします。
  また、出版に当たりましては、企画の段階からご協力いただきました学芸出版社編集部越智和子氏、編集から出版までをご担当頂き、終始暖かいご支援をいただきました同社の井口夏実氏、そのほか本書出版に際してお世話になりました方々、ご協力いただきました方々に、ここに記して深甚の謝意を表します。

2003年12月
日本建築学会 ガラス建築ワーキンググループ主 佐野武仁