改訂版 実務から見た木造構造設計


まえがき

 昭和62年の建築基準法の改正により、従来、防火・準防火地域では禁止されていた木造3階建が、準防火地域で建てられることになった。それを機に、土地の高度利用によるゆとりのある住宅の実現、及び同じ3階建でも鉄骨造と比較して低廉といった理由から、木造3階建が急増し、特に建売住宅の主流となった。
 しかし、木造3階建の構造設計・施工技術の伝承が途絶えていたため、町に建設されている木造3階建を調べてみると、木造2階建の感覚で施工されていて、地震や台風時に危険なものが多かった。実際、平成7年の阪神・淡路大震災での多くの木造住宅の被害に鑑み、平成12年には建設省告示にて仕口・継手の接合金物が規定されている。
 木造3階建の設計図書の作成に当っては、構造計算によってその構造が安全であることを確かめなければならない。そのため、構造図は鉄骨造と同じく構造計算結果により作成することになる。したがって、大工や棟梁まかせであった木造も建築士が作成した設計図に基づいて施工することになった。
 法的には木造2階建では構造計算は必要ないが、構造計算を行うことによってより合理的な設計ができ、コストも削減できる。そのため2階建の構造計算も徐々に広まりつつあるようである。
 しかし、木造の構造計算においては、これといって決定的な指針がなく、実務設計者は法令や規準を前に戸惑うことが多かったが、本書はこれらを実務的な観点から整理し、これ1冊で実務設計が可能なように必要な情報を整理することをめざした。すなわち、本書は一般には公開されていないが実際に広く行われている実務設計法と、法律的な、あるいは学問的な設計法を総合し、安全かつ経済的な木造構造を設計するうえで、実務上もっとも便利な設計法は何かを示したものである。
 そのほかの本書の特徴は以下の5点である.

1. 構造設計の定石 : 実務経験から生み出された実務設計術をまとめたものである.
2. 実務図表 : 構造設計に必要な資料を使いやすい図表にまとめたものである.
3. 設計例 : 2階建、3階建の実際の構造計算書をもとに解説し,計算手順の理解に役立てるとともに,設計参考資料としても役立つものとした.
4. 法令を網羅 : 関係する法令,告示の要旨を掲載した.
5. 必要な規準を網羅 : 日本建築学会の規準,日本住宅・木材技術センター及び住宅保証機構の設計方法の要旨を網羅した.

 これらの構造設計術は(財)住宅保証機構の性能保証住宅検査での「技術住宅」「現場審査」を通して知り得た実務設計のポイントを提示したものである。
 おわりに、「検査」「資料提供」に御協力下さった多くの方々にお礼申し上げます。また、労多き実務書の編集・校正は、森國洋行氏・村角洋一氏が担当下さいました。ありがとうございました。1ページでもお役に立つことを願います。
  平成16年4月25日
上野嘉久  

 改訂版にあたって
 平成16年に初版を発行して以来、第4刷まで多くの読者にご活用いただきました。
 平成17年に発覚した構造計算偽装事件に伴い、平成19年には構造計算関連法令が改正され、このたび本書も全面改訂いたしました。
 改訂・編集は、森國洋行氏・村角洋一氏が担当下さいました。ありがとうございました。
 前版と同じく、実務者座右の書として末永くお役に立つことを念じます。
  平成21年9月
上野嘉久