図説 やさしい構造設計


まえがき

[本書の目的]
 筆者は建築系専門学校で構造力学・構造設計を教えている教員です。専門学校で学業に励む若者たちは理系、文系、実業系、大学卒など様々な学習経歴を経て集ってきております。
 「物理学を学んだことがない。」「数学は苦手。」
という人たちも少なからず存在するのです。彼らは構造力学で部材に生じる力の求め方を学び、構造設計へと歩を進めていきます。私たち教える側は、彼らが学んだことのない事柄をあたかもあたりまえのように使うことは決してできません。2004年に出版した姉妹書「図説やさしい構造力学」(学芸出版社刊)はそのような現状に即して執筆したものです。しかし、その先の構造設計はどうでしょうか? 世の中には構造設計を説く優れた書物が多く存在します。それらはある程度の基礎ができあがった人たちを大きく飛躍させるものであると私は思います。しかしながら、構造力学の基礎的内容を学んだにすぎない人たちにとってはレベルの高い存在に思えてなりません。いきなり本格的な構造物の設計を教えることにはいささか無理があるように思えてならないのです。本格的な構造設計に至る前に、本質的な部分を理解する1ステップを置きたい。そんな教科書の必要性を感じて本書を執筆させていただきました。
 本書は構造力学、基礎物理学から構造設計にアプローチしていますので、詳細設計を行うための複雑な算定式は内容からはずしております。また、解き方が構造設計実務での手法と若干異なる部分もありますが、初級者が構造設計にアプローチする1ステップとしてご理解いただきますようお願い致します。
 構造設計は敷居の高い分野かもしれませんが、本書を通して少しでも構造設計を身近に感じ、その全体概要をつかんでいただければさいわいです。さらに望むなら、本書を踏み台にして、さらに高いステップへ歩を進めてくれる若者が現われてくれるならば、本書の目的はまっとうされます。

[本書の特徴]
・構造設計に関連する物理学を紹介しています。
 構造設計を理解するためには、基礎的な物理学を知っておくことが不可欠です。電車の中で感じる加速度、バネの伸びなど日ごろの出来事が簡単な数式で表現でき、建築物とどのように結びついているのかを知っておけば、構造設計の理解はおおいに進むことでしょう。
 基礎的な物理学は、構造設計との関連を解説しながら序章で紹介しています。
・許容応力度設計法を対象として解説しています。
 構造設計には限界耐力設計法などいくつかの設計手法があります。本書は構造設計の基礎を身につけることを目的としておりますので、旧来からの許容応力度設計法について解説しています。
・イメージを大切にしています。
 イメージできるかどうかが理解への大きなカギになります。本書ではイラストを豊富にいれ、イメージしながら学習できるようにしています。
・例題からの理解を大切にしています。
 学習したことを実践してみることは、理解する上で重要なことです。本書では項目ごとに例題を設け、実際に計算しながら内容を理解できるようにしています。
 例題には手順を示し、手順にそって解けば答えが得られるようにしています。
・単位としてkN/cm2、N/cm2を使っています。
 現在、構造設計で使用されている力の単位はN/mm2など建築物のスケールからすると非常に小さいものになっています。そのため、計算結果が非常に大きな値になったり、単位換算がわずらわしかったりと、「本質を理解させる」という観点からすると障害になっているように思われます。そこで本書では、kN/cm2、N/cm2など使いやすい単位を採用し、計算図表にもそれらの単位を適用しています。
・「図説やさしい構造力学」に引き続き〈ちょっと参考メモ〉を掲載いたしました。
 紹介だけはしておきたい発展的内容を〈ちょっと参考メモ〉として散りばめました。向学心旺盛なみなさんの参考にしてください。

 本書作成に尽力いただきました学芸出版社知念靖広様、イラストを担当いただきました野村彰様、内容についてアドバイスいただきました上原孝夫様、塩田隆夫様に、この場をもって厚く御礼申し上げます。また、執筆にあたり様々な文献を参考にさせていただきました。日本建築学会解説書につきましては抜粋させていただきました。この場をもって厚く御礼申し上げます。

平成18年9月1日
浅野 清昭