[学習にあたって]
構造力学を勉強しているみなさん,構造力学を勉強し始めようとしているみなさん,構造力学を勉強してみて,あるいは「力学」と聞いてどんなイメージをもっていらっしゃるでしょうか.
「むずかしい」「物理学は高校のとき勉強していないからちょっと…」
そんなご意見が多いのではないでしょうか.しかし,構造力学は決して私たちからかけ離れたところにある学問ではないのです.それどころか構造力学で扱う力は,私たちの身近な存在なのです.目を閉じてみなさんの幼少のころを思い出してみてください.みなさんはヤジロベイを作ったでしょう,シーソーに乗ったでしょう,綱引きをしたでしょう.私たちは力を使って遊んできたのです.そうです,力は私たちの幼なじみなのです.私たちは遊びの中から「力の感覚」を身につけてきたのです.構造力学を学習する際,みなさんのつちかわれた「力の感覚」を大切にしてください.
「でも数学が必要でしょう.私は文系だから…」
それもご安心あれ.小・中学程度の算数が理解できる人なら,本書で扱う構造力学をきっと理解していただけるはずです.
[本書の特徴]
本書では他の力学書にない手法をとりあげています.「力のイラスト化」「矢印図法」「面積法」「スパナ化法」.名前は私が付けましたが,手法自体は以前から語り継がれてきたものばかりです.どれをとっても優秀な手法です.にもかかわらずなぜ他の書物に掲載されなかったのでしょうか.小手先の手法で本質的でないと判断されたからでしょうか.しかし,力を身近に感じながら学習していただければ,決して小手先手法ではないことに気付いていただけるはずです.これらの手法は力の本質を見抜いたところにあり,それでいて短時間で答えを導くことができるという優秀性をも兼ね備えているのです.色々な場面,特に建築士資格などの試験会場でその威力を実感していただけるはずです.
特に「スパナ化法」は私の秘蔵っ子でした.私のオリジナル手法だと思っていたのですが,原口秀昭氏の著書『構造力学 スーパー解法術』(彰国社)で「スパナ法」として,すでに掲載されていました.先だってスパナの利用を考えられた原口秀昭氏に敬意を表します.本書ではスパナのイラスト化をするということで「スパナ化法」とさせていただきました.
本書を通して,構造力学をめぐる先人の様々な工夫を実感してみてください.私自身,本書をまとめるにあたって,基礎構造力学のさらなる可能性を感じずにはいられませんでした.
[本書の構成]
本書は「力の感覚」を重視して,構造力学の基礎部分のみに絞り込んで解説をしております.
したがって対象読者としては,
・建築系専門学校,高等学校で構造力学を学ぶ方々
・2級建築士などの資格をめざしている方々
・1級建築士受験の基礎作りをしたい方々
・大学課程構造力学の基礎作りをしたい方々
といった方々の学習用に利用していただければさいわいです.
また本書では「解ける喜び」を大切にしております.例題には〈手順〉を示し,手順通りに解いていけば答えが得られるような構成にしています.私は経験から,理論を突き詰めていく学習法には限界があると感じています.問題をたくさん解き,「解ける喜び」を感じたその向こうにこそ理論の理解,新しいひらめきがあると信じてやみません.皆さんにもぜひ「解ける喜び」を感じていただき,理解へと結びつけてください.
さらに向学心旺盛な読者のために、知っていると便利なこと、よくありそうな疑問への解答、発展的内容を〈ちょっと参考メモ〉として散りばめました。学習の一助としてください。
本書を通して力学を身近な存在として感じとり,理解し,そしてみなさんそれぞれの目標を達成していただければ,著者にとってこのうえない喜びです.
本書作成に尽力いただいた学芸出版社知念靖広様,イラストを担当いただいた野村彰様,作成にあたってご意見をいただいた赤井英稔様,宗林功様,本書作成にご理解をいただいた京都国際建築技術専門学校新谷秀一理事長様,この場をもって厚く御礼申し上げます.
平成16年9月1日
浅野 清昭
各章の特徴
・1章 構造力学を学習するにあたって最低限度必要な算術計算を紹介しています.すでに理解されている方は読み飛ばしてください.
・2章〜5章 「力の釣り合い」を主眼において力の基礎から部材に生じる力を解説しております.構造力学の基本です。しっかり学習してください.
・6章 部材に生じる力の実戦的解法を紹介しております.本書最大の特徴であり,著者が最も力を注いだところです.ぜひ自分のものにしてください.
・7章 特に解法手順を重視し細かく解説しております.トラスをタイプ分けして解法を示しているところにも注目してください.
・8章〜11章 力が目に見えるように変形を重視して解説しています.
・12章・13章 基礎知識的内容にとどめて解説しています.1級建築士レベル,大学課程の基礎作りに役立ててください.
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