不動産プランナー流建築リノベーション


おわりに


 不動産は不動と言うわりに、数十年経てばあっさり使い途が変わってしまう。自分の仕事は、建物の一定期間のための延命措置に過ぎないと思うと虚しく、自身の存在意義を見失いかけたこともあった。

 一方、見方を変えれば、短命だから良いとも言える。時代は目まぐるしく変化し、それに伴い、社会が必要とするものや人の価値観も移り変わる。不動産を使って時代に即した解、つまり商品をつくっていく仕事は、非常に面白く誇らしい。作品として世に残らなくとも、その時代に生きる人たちに必要とされること。それが、建築を学んだ者として、不動産プランナー流の建築への答えなのかもしれない。そう考えながら本書の執筆に励んだ。

 学芸出版社の井口夏実さんには、私の心を先読みされていたのか、この本の企画を持ちかけてもらった。学芸出版社ビルの一部を事務所として借りていた時期があるのだが、そのアイディアも井口さん。本書も、井口さんのハッとする構想のおかげで出版に至りました。また、本書に登場するオーナーさんや入居者さん、インタビューや原稿の確認にご協力いただきありがとうございました。文中のプロジェクトは、多くの方々の協力のおかげで成り立っています。オーナーさんや入居者さんをはじめ、工務店さん、設計士さん、デザイナーさん、この場をお借りして、いつもありがとうございます。道半ばで本を出すことに躊躇もありましたが、今だからこそ書くべきだと後押ししてくれた家族にも、感謝しています。

 前向きで真摯で、心から尊敬する皆さんと一緒にものをつくれることが、私の何よりの財産です。まだ見ぬ読者の皆さんとも、どこかでご一緒できれば嬉しく思います。


岸本千佳