世界の空き家対策
公民連携による不動産活用とエリア再生



はじめに


 日本における空き家問題は、単に過疎地域だけの問題ではなく、郊外住宅地の衰退や中心市街地の空洞化などの問題としても現れており、全国的な広がりを見せている。空き家のほか空き地も増えており、さらに空き家・空き地の中で所有者不明となる物件も出るなど、問題はより深刻化している。対策としては、単に問題となっている空き家を解体したり、まだ使える空き家の活用を進めたりするだけではなく、空き家・空き地を含むエリア全体をどのように再生させていくのかという観点から、総合的に考える必要性が次第に高まっている。
 海外でも空き家問題は一つの課題とされている。日本と同様、少子高齢化が背景にある国では、危険な状態となった空き家が取り除かれるような対策が講じられている。他方、人口が増えている国では問題の性質が異なり、住宅供給を増やす必要性から、空き家を空き家のままにさせず、市場に戻す対策が重視されてきた。しかしこうした国においても、衰退しているエリアは存在し、衰退エリアをいかに再生させるかという意味では、日本と同じ課題に直面している。
 すなわち、人口動態の違いによって各国の空き家対策の重点の置き方は変わってくるが、空き家・空き地が多い衰退エリアはどの国でも存在し、そのエリアが今後とも居住地として残すべきエリアであれば、再生を図っていくことが求められている。これは、まちの成熟化が進んだ後に、そのまちの魅力を回復させ、まちとして存続させていくためにどのような取り組みが必要になるのかという問題になる。
 特定エリア内の空き家・空き地の権利関係を調整し、土地利用を再編しながらまちの再生を図っている例は日本でも存在するが、海外においてはそうした取り組みがより広範に行われている例がある。さらに最近は日本でも、空き家対策とまちづくりを明確に連携させた対策を講じる例も現れている。こうした取り組みにおいては、行政の資金と民間のノウハウの組み合わせといった公民連携の体制も有効になる。
 一方、所有者不明土地問題については、登記が任意の日本ではこうした問題が生じやすい。しかし、日本ほどではないが、海外でも登記がなされず所有者不明問題が発生している例もある。この問題については登記義務化の必要性がしばしば指摘され、そうした方向性も検討課題の一つになっているが、義務化しても実効性を担保できるかは定かではないとの意見も根強い。
 問題の本質は、人口減少時代においては、今まで使われていた土地の次の使い手が現れる可能性が低く、現在の所有者も将来にわたって責任を持って管理し続けることが難しくなっている点にある。こうした土地を誰がどのように管理していくのかについて、今後人口が著しく減少すると見込まれる日本であればこそ、新たなしくみを構築できる可能性を秘めている。
 本書においては、海外各国の空き家事情、空き家対策を紹介し、そこからどのような示唆を得られるかを探ることを目的としている。対象国としては、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、韓国を選び、それぞれを専門とする第一人者の参加を仰いでいる。各研究者は現地調査も行いつつ、実態の把握に努めた。
 これまで各国の空き家対策を比較分析した書籍はなく、貴重な情報源になると考えている。本書によって、各国の空き家対策に関する理解が深まり、日本の空き家対策をより一層進化させていくためのヒントが得られると幸いである。2018年は総務省「住宅・土地統計調査」の5年に1回の調査年にあたり、空き家の最新動向が2019年に判明することを受けて、空き家対策に関する議論は、今後、もう一段盛り上がってくると考えられる。
 本書を刊行するにあたっては、学芸出版社の宮本裕美、森國洋行の両氏に大変お世話になった。とりわけ、宮本氏の着想がなければ本書が世に出ることはなかった。深く感謝申し上げる。
2018年8月
米山秀隆