建築家のためのウェブ発信講義


はじめに 建築家がウェブで発信することの可能性


「このホームページを、このように改良したら良さがもっと伝わるのに」
「この切り口で情報を発信すれば、もっと社会で注目を集めるだろうな」

インターネットが普及し、大多数の建築家が情報発信のためにウェブを活用する時代になりました。
日本中・世界中の建築家がホームページやTwitter、Instagram などのSNSを活用して、自身の作品や考え方を広く届けようと試みています。私は建築系ウェブメディア「アーキテクチャーフォト(http://architecturephoto. net)」を立ち上げてから10年間×365日、毎日彼らの発信を見てきました。
その経験の中で気づいたのは、自身の建築家としての「良い部分」を客観的に理解して、それを「適切な方法」でウェブ発信できている方はそう多くない、という事実でした。

それと同時に思ったのです。
アーキテクチャーフォトの運営で培ったウェブ発信の考え方・方法論の中には、建築家の皆さんそれぞれのウェブ発信においても役立つものがたくさんあるはずだと。

建築家が、ウェブを有効に使い、建築業界の内外を問わず届けたい情報を届けたい場所に、適切に届けられるようになってほしい。それが本書を執筆した目的です。
そして、建築家のウェブ発信が改革された先には、建築家の存在がより認知された社会が待っているとも思うのです。

こんにちは。アーキテクチャーフォトというウェブサイトを主宰している後藤連平と申します。ご存じでない方に簡単な自己紹介をさせていただきたいと思います。
アーキテクチャーフォトは、私が2007年に設計事務所勤務の傍ら、個人的なプロジェクトとして立ち上げた、建築意匠の情報を中心に扱うウェブサイトです(現在は、アーキテクチャーフォトの運営に専念しています)。
2017年を振り返ってみるとアクセス数の月間平均は、約24万ページビューを超えています。この数字は、世の中の一般的な情報を扱うサイトと比べると少ないかもしれませんが、日本国内で建築意匠という専門的な分野を取り扱うサイトとしては、とても大きな反響であると自負しています。

サイトでの主な活動は、世界中のウェブサイトの中から今見るべき建築情報をピックアップし、独自の視点を加えリンク形式(世界中のどのようなウェブサイトでもURLを貼りつけることで、その情報を一瞬で閲覧することができるようになる、ネット世界で特徴的な仕組み)で紹介すること、建築家の方々と直に連絡を取り合い、作品の資料を提供していただき、特集記事として紹介することなどを行っています。また、アーキテクチャーフォトジョブボード(http://job. architecturephoto. net)という別サイトの運営では、建築家の方々が求人情報を告知するサポートを手掛けています。このように、建築家のためにウェブを駆使し、様々な情報を提供したり取り扱ったりすることに人生を捧げています。


この書籍のフレームワークと使い方

この書籍は、そうして私が日々のウェブ発信のなかから得た知識や情報との向き合い方などを、建築家の皆さんに役立つように整理し、まとめた1冊です。大きく分けて三つの章で構成されています。

1章では、建築系ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」を立ち上げ、現在の規模に成長させるまでの個人的な経験の紹介と、そのなかで気づいた、建築家がウェブで発信すべきことを説明しています。

2章は理論編として、ウェブ発信を行う際におさえておきたい原則的な考え方を紹介しています。ウェブ上にはFacebook やTwitter に代表されるように無数のアプリケーションやサービスがあり、仕組みや使い方もそれぞれに異なります。しかし、ウェブ上のほぼすべてのコンテンツが、テキスト・画像・動画の組み合せで成り立っていること、そして人間が発信し、人間がその情報を受け取るという構造上、すべてに共通して応用可能な基本的な考え方が存在します。
理論編では、それを理解してもらうことで、読者が、実際にウェブで発信する内容や、どのような切り口で、自身の活動を発信すればよいか考えられるようになることを目的としています。そうすることで、この先ウェブ上に新しいツールが生まれたとしても、その思考法をもとに適切に発信することができるからです。

3章の実践・分析編では、実際にウェブを使いこなしている建築家に焦点をあて、その発信方法を具体的に分析・解説していきます。

ウェブを、自身の建築理論と社会を接続させる手掛りとする方、建て主とつながるツールとして活用する方、都市部を拠点として、あるいは地方で活用する方。様々な目的・地域でウェブを上手く活用している9人の実践者を取り上げました。これらの多様な発信のあり方を読み比べることで、自身のウェブ発信のヒントを得られるでしょう。

また、理論編と実践・分析編は、各項目末尾に記載された「タグ」で関連づけられています。理論編の中で特に気になる考え方があれば、関連する3章の建築家分析に移動し、より理解を深めることができます。また、建築家の分析から理論編に戻り、そのエッセンスを再確認することもできます。ただ直線的に読み進めるだけでなく、読者の皆さんがより理解を深め、楽しみながら学べる仕組みを考えました。

この本が、皆さんが試みるウェブ発信の一助となることを願っています。

2018年1月 後藤連平