デザインキッチンの新しい選び方
設計者とインテリアコーディネーターが知っておきたい

はじめに


300件以上のキッチンを取材してわかったこと


 本書で主に紹介するのは、建築家や依頼主がキッチンを手に入れるための新しい入口です。私は住宅の取材を長く続けていますが、特にキッチンの取材に力を入れています。主に建築家の住宅やオーダーキッチンのある家庭を300件以上は取材していると思います。そのきっかけは単純なものでした。自分が料理をつくって食べて飲むのが好きだから。それだけの始まりだったのです。

 そして2010年頃からでしょうか。取材でよく聞く言葉がありました。自分らしい、デザインの美しいキッチンを実現したお宅を訪ねると、「自分のなかにイメージがあるのに、設計者や工務店の勧めてきたカタログのキッチンはどこかしっくりこない、ピンとこなかった」「優れた機能やコストメリットを説明してもらっても、何か違う気がする。他に選択肢があるのではないか。そこで自分で一生懸命探した」と依頼主は言うのです。

 情報を発信する側の私も、同感だったのです。雑誌やウェブサイトから執筆を依頼されるキッチンの企画は、いつも「お手入れ」と「収納」に特化したものばかり。もちろんそれは基本であり、大切なことですが、その記事をつくりながら、新しい世代のニーズには合わないと感じていました。取材に行くお宅では「てきぱき」「らくらく」の言葉が踊る記事よりも、インテリアの洋書に付箋をつけてキッチンづくりの参考にしていました。その様子も大きなヒントでした。提供される「キッチン」も、発信される「情報」も、誰もピンときていない。新しいタイプのキッチンの本を自分なりに企画し、伝えてきたつもりですが、まだまだ伝わっていないと痛感しました。

 本書では「依頼主、設計者、キッチンメーカー」の3方向からの取材を通して、これからの新しい切り口を考えました。そして取材で出会った言葉に加え、キッチンに関わる仕事をする約70名にアンケートやヒアリングを行い、設計者に参考になるキッチン選びの「現場の声」を盛り込みました。

キッチンジャーナリスト 本間美紀