デザインキッチンの新しい選び方
設計者とインテリアコーディネーターが知っておきたい

おわりに


 本書の内容は、すべて取材で出会った方々の暮らしやお話から教わったことから、分析したものです。料理の話、インテリアの話、キッチン選びの話。みなさん古くからの友人のように話して下さり、時には手料理をごちそうになることも。さっと手早く料理し、気の利いた盛りつけをして、素敵な食卓でもてなして下さいます。「みんなこんなにキッチンでの時間を楽しんでいるんだ」。取材をしながら何度そう思ったでしょうか。

 専門誌『室内』の編集部にいた1995年頃は、キッチンの実例取材は料理やファッション、デザイン関係の仕事をしている人や帰国子女、富裕層の方が多く、取材地も大半は都心の一等地でした。ところが最近の取材先は郊外の住宅地が増え、地方都市でも素敵なキッチンが取材できます。取材先のお仕事も公務員、ショップ勤務や専門職、一般企業に勤務する人たちが、ウェブなどで情報を入手し、予算を上手に使って気軽に自分らしいキッチンを実現しています。

 同時に、キッチンの新しいつくり方や売り方をしている人にもたくさん出会うことができました。けれどもキッチン業界のボキャブラリーはいつまでたっても同じで、キッチンのプロも依頼主も伝える言葉を持たないまま、行き違いが続いています。

 ものは品質だけではなくコミュニケーションで売れていく時代です。キッチン設計のノウハウや技術的な情報は、私より詳しい人がたくさんいます。私の役割は「みんなが感じている思い」に言葉で輪郭を与えていくことだと感じています。本書ではロジカルな部分に不足を感じる人もいらっしゃると思いますが、日々の仕事で忘れがちなエモーションとノンテクニカルスキルが少しでも伝われば幸いです。

 本書のベースとなっている実例は、ユーザー向けの著書『リアルキッチン&インテリア』シリーズ(小学館)にたくさん載せていますので、併せてご活用下さい。そして編集に辛抱強くお付きあい下さった学芸出版社の宮本裕美さん、ありがとうございます。

2017年5月  本間美紀