不動産の価値はコミュニティで決まる
土地活用のリノベーション



おわりに

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
 「不動産経営」と「コミュニティ」。その二つを価値創造という視点から有機的につなぎ合わせることが、本書の中で私が試みたテーマです。「コミュニティ」を生かした魅力あふれる「不動産経営」が多様な形で展開されていること、また持続可能な「不動産経営」のためには今後ますます「コミュニティ」の要素は不可欠になっていくことを、拙稿からくみ取っていただければ幸いです。
 そのときに皆さんに多少なりとも「わくわくする」気持ちが芽生えたなら、この本を書いた意義があったと思います。なぜなら、わくわくするという心の作用は人から人へと伝播するものだからです。自分自身がわくわくしているという心のバロメーターを大切にしていただければ、きっとその方向にこそ、物事の本質があるのだと思います。それは、地域にとって、そして日本にとっても大切にすべき本質的な価値だと思います。
 私が土地の生かし方を考えるときに、その本質を問いただしてくれる場所があります。それは沖縄です。沖縄には現代でも土地に宿る霊的なものを大切にする文化があり、その神秘的なところに私は惹かれるのです。
 その沖縄の宮古島にみね敏子さんという、いつも私の話し相手になってくださる建築家がいらっしゃいます。伊志嶺さんとお話ししていると自分が大切にすべきことが自ずとはっきりしてくるのです。今回も、本書の主題について発想を深めようとお伺いしたのですが、それは、土地の「風景」の意味について深く考える機会となりました。
 伊志嶺さんは、沖縄の切実な問題として「台風の被害を受けない場所」こそが価値のある土地だと考えます。ある事業用地の下見に行かれたとき、その敷地に自生している松の大木に注目したという話を聞きました。大木が育っているということは、長年にわたり台風の被害を受けずに済んだという「証し」だと言うのです。そうした意味で、長い年月をかけて引き継がれてきた風景こそが「安心の証し」であり、そういう土地こそが「まほろば」、つまり「住みよいところ」なのだと指摘いただいたのです。
 地域の風景は、それがその地域の共有価値として位置づいたときに根づきます。逆に言うと、共有の価値を相互に味わい、それを大切にし合う人間関係がそこになければ、地域の風景は失われていくということです。
 今回の取材では六つの不動産事業の事例を見させていただき、貴重なお話をお聞かせいただきましたが、改めて「思い」があるところに、人のよりどころが生まれ、そこに寄り添う人々の手によって土地の「風景」は育まれるのだと思いました。「まほろば」はそうしてかたちづくられるのだと。
 最後に、本書の出版にあたってご協力くださった皆さまに心より感謝申し上げます。
 不動産事業の事例について、お忙しいなか快く取材にご協力いただいた地主およびオーナー、事業者、住まい手の皆さまとのお話は、まさに「わくわくする」ことばかりでした。また、田村誠邦さん、林厚見さんには、豊富な実践に基づき、経営的視点から私の問題意識を補完いただきました。心より御礼申し上げます。
 学芸出版社の宮本裕美さんには、企画段階から校正まですべてにわたって目配りしていただきました。そして、出版の機会を与えてくださった一般財団法人 住総研の道江紳一専務理事をはじめスタッフの皆さま、誠にありがとうございました。
 また、この本は、旧知のライターである渡辺由美子さんによる執筆協力、「経堂の杜」の住人でもあるデザイナーの大竹美由紀さんによるデザイン、弊社社員の牛越理紗さんによるイラスト、そして私の妻であり仕事の右腕でもある高橋喜久代が企画編集を担当するというチームワークで仕上げられました。私の思いを深く理解してくれるこれらの協力者がいてくれることで、私個人の力をはるかに超えた本ができあがったと思います。これこそがコミュニティのもたらす可能性だとつくづく思います。
 わたしがわたしでいられるのはあなたがいてくれるから。わたしがわくわくしていられるのはあなたがいてくれるから――という思いをこめて。

2016年1月 経堂の杜にて  甲斐 徹郎