桂離宮・修学院離宮・仙洞御所
庭守の技と心

まえがき


 私は四十年間にわたり宮廷庭園(桂離宮、修学院離宮、京都御所大宮仙洞御所)で仕事をしてまいりました。振り返ると長い年月でしたが、素晴らしい庭から、また素晴らしい先輩たちから学びを受け、充実した仕事ができたと思います。

 四十年間の仕事は人生と同じです。幼年期・青年期・中年期・実年期があります。
 幼年期は先輩たちから仕事を学び、また礼儀も学びました。仕事は教えてもらうことではなく真似をすることです。右も左もわからない者が、樹木の手入れを真似ることから始まります。この時によく、「恥は掻き捨て、今聞かなければ一生損をする」と園丁(清掃役の女性)に言われました。まさしくその通りです。

 青年期を迎えると、仕事のやり方もわかり、一人前として扱われるようになります。この時よく言われたのは「怒られてなんぼや」ということです。怒られることは本当に身になり、ありがたいことなのだとわかりました。

 中年期はまさに働き盛りです。今までは指示を受けていればよかったのですが、これからは自分で考え今まで探究してきたこと、また、庭から教えられてきたことを活かして、宮内庁の職員として庭の管理を総括し、工事の施工にも携わります。このときは、先人からもらった知恵や本当の庭の姿を考え、必死になって庭に対してお返しするのです。四十歳を過ぎる頃、桂離宮で霰零しの改修工事をしました。一生の仕事の中で二度とできない工事でしたし、失敗は許されません。いろんな先輩から霰零しの石の使い方について「平に使うな、できるだけ長く差し込み、石の面は凹凸があっても丸くてもよい」「目地はそろわずともよい、石と石とがかみ合うように差し込むことが大切」だと聞かされました。そのことを知ることができたのは工事の指導監督に最も役立ちました。

 実年期を迎えたとき、仕事人生の総括がありました。今度は現場管理だけではなく、設計当初から関わり、工事を成し遂げることが義務となったのです。仙洞御所の護岸改修工事では、その姿の復元のために、各地の自然の海岸まで洲浜を見に行き観察したり、昔の写真を見るため、たくさんの書物を集めました。何本かのトレンチを入れ、昔の地盤を確認して、本来の自然の姿の洲浜を復元することができたのです。
 私は、人生において実年期がいちばん大切な時期ではないかと思います。これまで私が庭から教えられたことを、次の方々に伝え残すのが、私の生きてきた証です。読者の皆様に、心から尊敬してきた庭からのメッセージを伝えられることを本当に嬉しく思います。

川P昇作