この本には、自分の直感を信じ、自分の足で日本を飛び出して、自分の手で仕事をしてきた(いる)17人の建築家の物語が詰まっている。タイトルにもあるように、ひとことで「海外」といっても、北はフィンランド、南はチリと世界中に日本人は出向いているようだ。17人の著者たちが建築と共に送っているそれぞれの特別な人生の輝かしい時間が、行間も含めて、本書からにじみ出ている。読み進めていくと、全員に共通する構造が見え隠れする。

 それは、あらゆる局面において責任をもって自らの選択をしていることと、楽観的な想いを胸に惜しみない努力を重ねることで、人生を心底楽しんでいる(エンジョイ・ライフ)ように見えることである。勇気をもって選択された道というのは、いつも大きな不安と隣り合わせなものであるが、そうした不安や立ちはだかる壁が高ければ高いほど、乗り越えた時の達成感は、ひとしおだ。これは、自分ひとりでできることではなく、自分のおかれた環境によるところが大きい。「海外」であるからこそ、人は言葉や文化の違いをエネルギーにして、他者と対話する能力を身につける。広い意味での「コミュニケーション能力」は、建築家にとって最も大切な武器のひとつである。

 ポルトガルの巨匠の下で働くことや、ベトナムで日本人が独立すること、インドで働くことなど、建築の世界は、じつに多様な可能性を秘めている。私もドイツ・ベルリンの設計事務所で4年間働いた者として、本書の執筆と編集を担当している前田茂樹さんの言葉に、強く共感する。

 「ドアをノックしなければ、始まらなかった」。きっと、きっかけなんか、どうでもいいのだろう。ただただ目の前にあるチャンスに対して素直に反応し、ひとつひとつのことに全力投球することで、自分でも想像できなかった明るい未来を切り開くことができる。そんなことをこの本は、ストレートに伝えてくれる。

 読み終わった頃には、頼りがいのある17人の友達ができたような清涼感を覚えた。そして、日本人としてこれから建築の世界でいかに活躍していくのかがすごく楽しみになり、勇気づけられた。海外に残って仕事を続けるにせよ、日本に帰国して独立するにせよ、彼ら彼女らのこれから先の長い人生において、それぞれのかけがえのない生身の実体験がいかに魅力的な建築へと結晶化されていくのかが本当に楽しみでならない。同じ建築家である私にとっては、先ほど「友達ができた」ようだと記したが、「良きライバル」を得たのかもしれない。

光嶋裕介






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『建築武者修行〜放課後のベルリン〜』