海外で建築を仕事にする
世界はチャンスで満たされている

あとがき

 私と執筆者の田根氏、吉田信夫氏は、2006年にパリの近郊で行われた展覧会、Archilab Japonに別々に訪れ、パリに帰る電車で偶然一緒になり、それ以来、折に触れて会うようになった。たいてい夜から集まり翌日の昼過ぎまで、それぞれの事務所の働き方、お互いが見た展覧会や映画、旅行、コンテンポラリーダンスなどについて話し、それが建築の話に繋がり、また別の話題に移り、そしてまた建築に繋がるような話をした。ペロー事務所の同僚やペロー本人も、日常に何を見て、どう感じるかを、建築や都市の一部を設計する仕事へと常にフィードバックしていたように思う。

 本書は、執筆者の日常の描写が差し込まれている。そのためか、字面を追うと穏やかな印象を受けるが、その行間には自らの人生をクリエイトしてきた、執筆者の想いが満ちている。
 海外へ行けば、滞在ですらお膳立てされる保証はない。海外の設計事務所と契約を結び働く、あるいは事務所を主宰し、滞在許可証やビザを更新して生活する。あらためて本書を読みなおすと、個人が自分の人生をクリエイトすることそのものが、創作であると思う。そして、人生をクリエイトするということは、さまざまな局面において選択のリスクを負うことといえる。しかし、自分が建築家としてどのように生きたいのかを見出し、その想いがリスクへの不安や危惧を越えた時、本当の意味での自由を得るのではないだろうか。

 ワーク/ライフのバランスをとりながら、日常、仕事すべてが建築に没頭できる時期を若いうちに持つことは、とても貴重な経験である。もちろん、そのような経験を積める環境は海外にだけあるものではない。だが、誰もが自ら動くことで、文化や民族を越えて、環境自体をクリエイトする自由を持っている。言語は、現地に住み、ここで建築を仕事にして生きていくのだと思えば、否応無しに覚えていく。
 読者それぞれが感動と信念によって、道を切り拓いていけることを、期待し応援している。

 学芸出版社の井口夏実氏、岩切江津子氏には、このような書籍に編者として関わる機会をいただけたこと、企画段階から編集方針を共有し、一貫した姿勢で編集をしていただいたことに、心よりの感謝の気持ちを捧げたいと思う。

2013年7月 前田茂樹