木造住宅のしくみ
軸組工法を学ぶ

まえがき


 現代の住まいの課題として、自然エネルギー利用(省エネ省資源)、持続性(サスティナビリティ)、健康と環境問題を意識した生活(ロハス)などがあげられている。しかしこれは伝統的な日本の住まいのあり方にほかならない。今も生き続けている木造軸組工法による日本の住宅は、日本列島の過半を占める森林からもたらされたものである。森を守る技術や制度、受け継がれてきた大工職人の技芸、四季折々の生活行事などとともに住まいのしくみができた。
 この本は1988年(昭和63年)初版『木造住宅のしくみ─在来工法の基本と応用』(日本建築協会企画、プロのノウハウシリーズ)を元としている。初版以降、本書巻末参考文献にみるとおり、木造住宅にさまざまな角度から光が当たっている。筆者もそれらを興味深く読ませていただいた。20年前は大工職人の木工術による家づくりという観点でしかなかった在来工法が、木造軸組工法、伝統木造構法などという名称を与えられながら、現在評価され生かされている。
 そこで本書では、木造軸組工法が住まいの文化としてあることを、今日的状況の中で改めて見直してみた。初版当時とは異なっている状況については訂正することにした。しかしことのほかその分量は少なかった。変わらないしくみを持つが故に在来なのだった。そして「最古最優」の言葉通り、始源への回帰をより重視することとなった。
 大工の言い伝えに「道理がないものは伝わらない」ということがある。現代に生きている在来工法の道理は普遍である。これは本書の求めたところでもある。初版から20年余りが過ぎた今日、改めてその道理を確かめ再認識することとなった。
 本書のもう一つの立場に現場から考えるということがある。この20年余りの間に筆者達も経験を積み重ねた。そこで初版掲載の現場写真や図版を大幅に差し替えた。そして日本の木造住宅のありさまを「いろはカルタ」で示した。これらは筆者とゼミナールをともにした日本大学生産工学部建築工学科卒業生達の協力の賜物である。
 また本書の根底には、現場や会合で筆者の質問に応えていただいた大勢の棟梁の皆さんの示唆に富む会話がある。特に水澤工務店西村晃義棟梁からは多くのことを学ばせていただいた。ご協力いただいた皆様に深く感謝を申し上げる。
 2003年、国土交通省の支援によって(財)住宅産業研修財団が運営する「大工育成塾」が開設され現在に至っている。同財団主催の伝統木造軸組構法を対象とした「真の日本の住まい」提案競技が2004〜2010年に行われた。この2つの事業に筆者は参加することができ、新たな知見を得ることができた。このような機会を与えていただいた同財団の松田妙子理事長からは、多大な教示とご鞭撻をいただいている。記して謝意を申し上げる次第である。
 自然の恵みを活かした住まいについて、畏友、花田勝敬君が本書8章を担当することで本書の企画が進んでいた。花田君とは日本の住宅について共通の問題意識を持ってともにこの時代を歩んできた。にもかかわらず2011年1月帰らぬ人となった。8章は花田君の積年の設計活動に示唆を得て、やむなく筆者がまとめたものである。ご冥福をお祈りするとともに本書を捧げるものである。
 この本は初版と同じく共著者で論議を重ね、多くの先達が残した知見から学ばせていただいた。参考文献にあげて敬意と感謝を記すものである。本書の構成にあたっては図版と写真については東が、文章については浅野が担当した。
 最後に新訂再版を決定され、新たな本づくりにご尽力いただいた学芸出版社、吉田隆さん、越智和子さんにも深謝申し上げなければならない。共通の思いとともに本書がよみがえったことはこの上ない慶びである。
2011年7月    
 浅野平八