町家棟梁
大工の決まりごとを伝えたいんや

おわりに


職人が歩んできた道を本にする話を、数年前、学芸出版社の京極様より話があったときはお断りをしていたのですが、今回、京都工芸繊維大学の矢ヶ崎善太郎先生と対談形式で本にまとめましょうと勧められて、このような本となり、大変恐縮しております。

職人である私の話は、見覚え、聞き覚えの域を出ず、話をまとめるのに苦労されるのははじめからわかっていました。昔から、職人は、聞かれたことは答えることができても、順序立てて話すのが大の苦手ですから、本の原稿ができていく過程で自分の言ったことを忘れる始末でした。ただ、何回も構成を重ねていくなかで、自分にも少し自信が出始めました。この本が、職人を目指す今の若い人たちに少しは役立つものがあり、こころよく読んでいただけるのかなと思います。

私のつたない話のなかから、昔と今の職人の違いや仕事の違い、昔気質の職人が何を考え、何を信条に仕事をしてきたか、少しでも伝わればと思っています。来年、傘寿を迎える集大成にすることができ、本当にうれしい限りです。

今回、矢ヶ崎先生に大変苦労をおかけし、また、構成に協力いただいた松井久恵様、学芸出版社の知念様に頭の下がる思いでいっぱいです。

今、このあとがきを書きながら、私を育てていただいた多くの方たちの顔が走馬灯のように目に浮かんでくる次第です。
荒木正亘