伝統木造建築を読み解く


はじめに

 本書のタイトルの「読み解く」の「解く」は、「ほどく」、あるいは「とく」と読めます。広辞苑によると、「結ばれていたものを分け離す」「不明なものを明らかにする」などの意味があります。「解」を使った熟語には、解剖、解体、解釈、解明、解析、解答、解読、解説などがあります。従来の伝統建築に関する著書では、建物の様式、その時代的変化、技法等を紹介する「解説」本が多いように見受けられます。しかし、建物を理解するためには、外見的な特徴等にとどまっているだけでは不十分です。建物の「かたち・規模」には、いくつもの条件や技術的、財政的背景などが存在します。我々が目にする建物は、施主、技術者たちの血と汗の結晶です。本書では、外見の解説にとどまらず、部材一本一本にまで解剖して、それぞれの部材の働きや仕組みを探り、背景にある様々な事象を探り出すことによって、わが国の伝統木造建築の特質を掘り起こしたいと思います。同時に、先人の知恵や苦労なども解明したいと思います。さらに、これらの特質を生かした保存とそのための修理のあり方、具体的方法について述べます。

 一口に伝統木造建築と言っても、社寺建築から城郭建築、住宅建築など様々なものがありますが、すべてのことを解き明かすことは紙数の制限もありますし、それ以前に筆者の能力を超えます。また、焦点もぼけますので、最も技術的にレベルが高く、資料的に古代まで追える寺院建築を中心に話を進めたいと思います。

 最初に、わが国の伝統建築の歴史を振り返ります。長い歴史にはいくつかの画期があり、技術的な発展あるいは建物に対する考え方の変化などが見られます。各時代の特徴をできるだけわかりやすい言葉で解説したいと思います。

 次に、第2章において、時代を通してのわが国の伝統建築の特徴を述べます。ただ、「かたち」などの表面的なものにとどまらず、背景にある建物に対する考え方や技術などについても、「かたち」を通して解明に努めたいと思います。

 これまで長い歴史の中で培われてきたわが国の伝統建築、世界に誇るべき建築文化が、大変な危機に瀕しています。さらに悲しいことに、建築に携わる人間でさえその素晴らしさに気づかないどころか、危機にあることすら知らない有様です。最後の章で、この貴重な文化遺産をどう後世に伝えられるかを考え、まとめにしたいと思います。

村田健一