図説 建築の歴史


書 評
『庭』(龍居庭園研究所)No. 157
  紀元前数千年に建てられた古代オリエントのジッグラトや古代エジプトのピラミッドにその起源を見る建築様式の歴史を解説したテキスト。「イラストでよむ」と書かれているように、詳細な図版が全ページに満載。それらを通覧するだけでも、古今の建築様式の概略が把握できる仕組みだ。
  神を祀る神殿や権力の象徴として誕生した巨大な建造物は、時を経て、その拠点をギリシャ、ローマに移す。建築は「用、強、美」の三要素によって成立するという定義は、古代ギリシャにおいてすでにあった理念だという。中世以後のヨーロッパ建築は、キリスト教と密接に関わりながら、教会を中心に、壮麗な様式美が展開される。わが国の建築も、宗教、とりわけ仏教からの影響が色濃いが、城郭や書院、茶室など生活に結びついた、独自の建築様式も生み出されて行く。精密なイラストにより、それぞれの技法と装飾の特徴が分かりやすい。
  産業革命以後、「スチールの時代」が到来した近代は、これまでの建築が、がらりと様相を変化させた時代だという。機械文明への礼賛と批判という相克が、建築デザインに反映されると同時に、建築家たちの顔が見えてくる。フランク・ロイド・ライトやル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエなど、彼らの理念がデザインを決定するようになる。
  そして二十一世紀、建築そのものが主題であったこれまでの歴史から、建築は大きく変容を遂げようとしている。風景との同化という新しいテーマが追求され、「場所の再生」という新しい役割が期待される。古代から現代までの多岐に渡る建築形態のエッセンスが明快にまとめられている。