デンマークという国は可愛い国です。

　人口540万人足らずの人々が、日本の九州と同じくらいの面積に住んでいるというのですから、どちらかといえば小さくて可愛い国です。

　そして「愛くるしい」という表現にも、まさにぴったりの国なのです。デンマークというと、多くの人々が童話のアンデルセンを連想するでしょう。その童話に出てくる、ほっぺたが赤く、目がくりくりして、ちょっとイタズラ好きで、活発な女の子。そんな愛くるしい子どもから連想するような、美しい国土と街並みと人々であふれた国なのです。

　ヨーロッパ大陸で、ドイツの北に位置するスカンジナビアは、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーで北欧三国と呼ばれるのが一般的です。それにフィンランドを加えて北欧4カ国、さらにはアイスランドを加えて北欧5カ国と呼ばれることもあります。その時々の状況に合わせて融通無碍に呼び習わせられるのには理由があるのですが、ここでは詳しく述べません。いずれにしても北欧の国々は、20世紀前半までは、「ヨーロッパの屋根」とか「ヨーロッパの田舎」とか揶揄され、なかば軽んじられていたのです。「今度ヨーロッパに行く」と言う私に、「ヨーロッパのどちらへ」と尋ねたフランス人が、デンマークへ行くのだと言った途端、「あそこはヨーロッパではない」と口の端を曲げて断言したものです。　しかしデンマークはイギリス、フランスの王家が生まれるずっと以前に王室が成立していた、歴史ある古い国なのです。デンマークの国の歴史は、ヴァイキングの時代にさかのぼることができます。

　そんな古い国でありながら、世界で初めて歩行者天国をつくり、ポルノを解禁するなど、新しいことに積極的に挑戦する若い心を持った国でもあります。デンマークでは過去100年の間に貧困と封建制の強い国から、自由な福祉国家へと変貌を遂げました。男女平等、高齢者をはじめとするさまざまな福祉体制の充実、教育への高い意識は、世界の注目を集めています。デンマークは国民の意志によって改革を進め、優れたグランド・デザインによって国家をつくり上げてきたのです。

　デンマークはまた、家具や照明器具、テーブルウェアなどの、優れたデザインを生み出す国としてもよく知られています。

　素材に対する敏感さ、ディテールへのこだわりによって生み出される美しいデザインは、デザイナー、マイスター（職人）、メーカー、そしてジャーナリストらの妥協を許さない努力によって育まれてきました。彼らの努力が、美しいものを追求する国民性を養う牽引力となってきたのだと思います。

　物のデザインも、国のグランド・デザインも、理想にどうやって近づくかを想像する心がなくては生まれてきません。私は、これこそが本当のデザイン・マインドだと思っています。多くの人々が感じるデンマークの魅力はこのデザイン・マインドによって生み出されているのです。

　さあこれから、デザイン・マインドあふれる国、デンマークを巡ってみましょう。デンマークの「可愛さ」がどこにあるのか、きっと見つけられることでしょう。