保育園・幼稚園・こども園の設計手法


あとがき

本書は、保育園・幼稚園・こども園の設計手法について、実務者、設計者、研究者の英知が結集されている。ここではその一端を抜き出してみる(網羅的ではなく私個人の独断と偏見であることはご容赦ください)。

「遊び環境を考える際は、ある遊びに特化したコーナー(専用コーナー)、多目的なコーナー(テーブル・イス、狭いスペース、広いスペース、高低差・段差)が網羅できているかチェックしながら計画すると良い」
─[1-05 遊びの展開(p.15)]

「子どもが創造的に遊びを広げることができる環境のポイントには、@応答性が高い、A挑戦できる、B多様性がある、C想像や創造がしやすい、D適度な刺激量(色・音・臭い等)の5つがある」
─[1-07 豊かな遊びが広がる環境とは(p.17)]

「園舎と敷地外の空間を繋ぎ、専有的に利用できる中間的な領域を確保する」
─[2-02 立地に応じた敷地外の保育環境(p.22)]

「衛生的にも、個々の生活リズムを尊重する観点からも、『食べる』と『寝る』場所は、別々に設けられていることが望ましい」
─[2-04 保育活動と保育空間の計画(p.27)]

「特に3歳児以上の子どもは活発に動き回れるため、コーナーが広すぎると遊びと関係のない通過動線・回遊動線が入り込む余地が生まれる。こうした動線が生じると、コーナーの空間的な独立性の意味は半減してしまう。空間単位の目安としては、畳2畳分あれば十分である」
─[2-06 コーナー計画(p.30)]

「園庭で遊ぶ最年少の子どもたちの遊びは、常に『ひとり』で『好きな場所』で『好きな時間』に『好きなだけ』、環境に働きかけようとする。そのための空間が園庭に求められている」
─[2-07 園庭の計画(p.31)]

「遊具は『イメージを限定しない事』『遊び方を限定しない事』そして『遊具単体で完結しない事』が重要である」
─[2-08 遊具の計画(p.33)]

「室内騒音として、一般的な保育室や遊戯室では40db、午睡を行う室では35dbが推奨される。また室の響きは、125m3程度の保育室では残響時間0.4秒(平均吸音率0.25)という短めの響きが推奨される」
─[2-09 音環境の計画(p.35)]

「天井が高く、上下温度差が生じやすい空間では、保育者と床面に近い園児とでは感じ方が異なる可能性があることに注意したい。なお、床暖房の設置は冬季に上下温度分布を小さくするのに有効である」
─[2-10 温熱環境の計画(p.36)]

「保育室の家具に求められる形は園ごとに違う。設計にあたっては、その運営方法を綿密に打合せ、個々の園にあった提案をすることが大切である」
─[2-13 家具計画(p.39)]

「庇のついた懐の深い大きな屋根は、その下に陰影があり、風が吹き抜け、自然の気配が流れる〈うち-そと〉の曖昧な空間を創り出す」
─[本宮のもり幼保園(p.69)]

「教室もやっぱり欲しいという声もあり、『全体が遊び場でありながら、個別の教室としても機能する』という一見矛盾するような構成を考えることになった」
─[狭山ひかり幼稚園(p.75)]

「保育棟は前面道路からの奥行き感や独立性を保つために床高さを前面道路から1mに設定し、盛り土した地面と縁側スラブの縁を切るために片持ちスラブとした」
─[ささべ認定こども園(p.96)]

「園から強く求められたのは、園庭への日照(西日)確保、既存園の動線の踏襲、メンテナンスの容易性であった」
─[川和保育園(p.100)]

「当初、ビル側の想定用途に保育園はなかったため、ビルの本体工事が先行する中で、スケジュール内での用途変更に伴う様々な変更事項、工事区分への対応に苦労した」
─[まちの保育園 六本木(p.121)]

「敷地が非常に狭いため屋外階段を日常的に使うという選択を行い、同時に多層化する保育室からの避難の問題について、積極的に検討を行った」
─[レイモンド元住吉保育園(p.125)]

「既存ビルが、建築基準法、消防法、バリアフリー条例、保育所の設置基準等の関係法令に適合するか見極めるとともに、排水・ダクトルート等設備経路の確認をした上で設計を開始」
─[グローバルキッズ飯田橋園・こども園(p.137)]


 このように、保育施設に対するあり方論、具体的な数値、設計実務における葛藤、施設規模・タイプに応じて配慮すべき点など、第一線の実務者、研究者、設計者が保育園・幼稚園・こども園の設計手法について論じていることが本書の特長である。また、今日的に需要が高い都市型の園から、郊外の園庭が豊かな園まで幅広い事例を掲載している。設計時はスケジュールがタイトな中、様々なことで迷い、頭を悩ませ、保育者の思いを形にするために奮闘することと思う。知りたい内容について本書を逆引き的に活用していただき、少しでも良い保育園・幼稚園・こども園の実現に役立てていただければ幸いである。

2019年7月
藤田大輔