知的障害者施設 計画と改修の手引き

おわりに

 原稿を書いているこの半年の間にも、知的障害者施設から多くの相談が寄せられました。既存施設の居室を水洗い可能にできるか、というものから、施設全体の将来計画についてなど、内容は多岐にわたっています。
 このように多様な相談を受ける中で、知的障害者の住まいや働く場について、建築設計という立場からさらに提案を行わければならないという思いが強くなっています。
 私がこれから取り組みたいことです。

●強度行動障害の方の住まいへの提案

 個人の特性に合わせて住まいをつくるためには個人用の住まいとなり、複数で住むこととは相容れなくなります。しかし多くの方は支援を受けながら複数の人と共に住む生活を送ります。グループホームにしても入所施設にしても、建築からのさらなる提案が求められています。

●就労の場への建築からの提案

 知的障害者の方の働く場所への関わりが増えてきています。障害のある方が関わるとしても、仕事そのものに競争力がなければ継続することができません。競争に打ち勝つ商品をつくることができる就労支援における建築の役割を考えています。

●地域生活支援拠点への提案

 地域で暮らすことを可能にする仕組みができつつあります。相談や体験と共に、地域の方に理解を深めてもらう拠点づくりが必要です。

●住まいや働く場と地域への関わりへの提案

 グループホームは地域の中での生活を実現します。仕事をした結果としての成果物は、地域の方に買ってもらったり、使ってもらったりします。また建物は災害時の避難所にもなります。地域生活拠点、ショップ、自立支援入所施設などが一体となって、地域の中で存在感を発揮するような提案を行っていきます。

●既存施設の支援方法やすまい方の変化に対応した建築からの提案

 施設がオープンして年月の経つものは、支援方法や住まい方の変化に対応できなくっています。固定された建物の中でどのように生活を変えていけるか、専門家の提案が求められています。この分野はこれからさまざまな検討を行い、それぞれの施設にあった提案をしていきます。

 これらのことを、実際に支援に当たっている方、事業を経営推進している方たちと議論し、実現化していくことを早急に行い、そしてそのノウハウを多くの方に伝えていきたいと思っています。
 本書では、私たちが設計に携わった三つの入所施設・グループホームの建物を取り上げ、説明を行いました。建物を設計する機会を頂戴したこと、そして「本書で私たちの取り組みを紹介することにより、日本の知的障害の方の住まいや働く場の向上に寄与できる」という私たちの考えにご賛同いただいたことについて、以下の3施設の理事長・施設長をはじめ、支援員・職員の皆様に深くお礼を申し上げます。
  • 社会福祉法人 福知山学園
  • 社会福祉法人 よさのうみ福祉会
  • 社会福祉法人 丹後大宮福祉会
 出版に当たっては企画、執筆は砂山が行いましたが、ゆう建築設計事務所・知的障害施設チームのメンバーが、下記部分の執筆や資料作成を担当しました。
  • 岩崎直子
    • 第1章 Case 1 グループホーム響・奏
    • 第1章 Case 6 むとべ翠光園(デイサービス)
    • 第1章 Case 7 むとべ翠光園(障害児入所施設)
    • 第1章 Case 8 スキップ むとべ翠光園 児童発達支援センター
  • 河井美希
    • 第1章 Case 2 菜の花ホーム
  • 清水大輔
    • 第1章 Case 4 あゆみが丘学園
  • 竹之内啓孝
    • 第3章 資料作成
  • 山本晋輔
    • 第5章 自宅で暮らすための改修ポイント
 最後に、知的障害者の住まいや働く場について、私が建築設計の立場から取り組むことにご理解をいただいた社会福祉法人福知山学園の松本修理事長には心から御礼申し上げます。松本理事長と長い時間をかけて議論を行い、施設運営者の立場からさまざまなご意見を頂戴したことは、私にとって知的障害者の住まいを設計する活動の礎となっております。

2017年9月 砂山 憲一