空き家の手帖
放っておかないための考え方・使い方

はじめに

 『空き家の手帖』は全国の空き家の所有者や、空き家でお困りの地域の皆様に向けて、空き家解消・予防のための考え方や使い方をわかりやすく、読みやすくお伝えする書籍です。この本は、元はといえば、京都のまちづくり組織「六原まちづくり委員会」が地域の方に配布するために自主制作した、小さな冊子でした。
 六原まちづくり委員会は京都市東山区にある六原学区の自治連合会の下部組織で、2011年に設立されました。前身は10、11年度の「京都市地域連携型空き家流通促進事業」として京都市の支援を受け、学識経験者や専門家とが連携しながら空き家流通に向けての調査・提案などを行った六原学区の住民によるグループです。12年度からは地域自立・自走型のまちづくりを開始し、地域住民に加え、行政や、不動産や建築、まちづくりの専門家など、多彩な人材と協力しながら進めています。
 なぜ六原学区が空き家問題に取り組み、『空き家の手帖』を制作することになったのでしょうか。背景には、空き家を要因とする地域の課題と、空き家調査からの発見がありました。六原学区は、京都市東山区、清水寺と鴨川の間、五条通北に位置します。学区内は観光地に囲まれた市街地で、古い町家も数多く残っています。歴史性と利便性を兼ね備えた恵まれた環境にありながら、一部の建物が空き家として放置され、地域の防災や治安に悪影響を及ぼしつつありました。一方で2011年、学区内に小中一貫校ができたことを背景に若い世帯の転入希望者が増え、住宅需要はあるものの供給が追いつかない状況でした。六原まちづくり委員会が空き家流通を促進すべく、空き家の所有者に事情をヒアリングしたところ、所有権や相続の問題がこじれている、片付けをする時間がない、知らない人に家を貸すのが不安といった、流通する以前の問題を抱えていることがわかってきました。そこで六原まちづくり委員会は14年3月、空き家の所有者に向け、空き家との付き合い方の基本を伝える冊子『空き家の手帖』を制作したのです。発行した3500部のうち1800部は空き家の問題点と流通の大切さを地域の住民にお知らせするため、六原学区全世帯に配布しました。
 2014年の私家版刊行後、地域住民のみならず、全国のまちづくりに関わる専門家などから大きな反響があり、このたび学芸出版社から刊行されるはこびとなりました。それにあたり、空き家発生の大きな要因にも関わらず紹介できていなかった第5章「片付けが、空き家防止の第一歩」と、空き家の活用事例の追加、およびコラムの刷新をしております。本書が空き家解消への取り組みの手助けとなり、将来の空き家を生まないためにどうすべきかを考える、きっかけとなれば幸いです。
2016年9月   六原まちづくり委員会 委員長 菅谷幸弘