歴史ある建物の活用に向けて


1 一般建物と文化財の活用

三船康道(エコプラン)



はじめに
 古い建物を活かしていこうとして、様々な事例に学ぼうという主旨の「歴史ある建物の活かし方」(学芸出版社)という本をつくりました。10人で執筆・編集をしまして、7月25日に一般発売の予定ですが、本日は出版記念シンポジウムです。
 私どもの会のことを簡単に説明しますと、まず会員向けの会報を出しておりまして、会費は年間2千円です。また、見学会も時々やるようにしております。それから年2回このようなセミナーを開いており、今回はちょうど5回目にあたります。3回目から講演の記録集をブックレットとしてまとめておりまして、本日も会場の後ろで売らせていただいております。3回目は藤島亥治郎先生という建築史の先生の99才の白寿の記念講演会でして、それを本にまとめました。4回目は東京大学都市工学科の西村幸夫先生に講演していただきまして、「歴史を活かしたまちづくり」としてブックレットにまとめております。


歴史ある建物の活用のあらまし
 では、私の話ですけれども、歴史ある建物の活用の見方として、今日の大まかな枠組みのようなものをお話させていただきます。
 ここで、歴史ある建物の種類としては、まず一般の建物と文化財建造物があると考えております。その文化財建造物の中には登録文化財と指定文化財があり、加えて伝統的建造物群保存地区にあるような建物があります。登録文化財というのは96年にできた制度でして、とても新しい制度です。
 そして一般的にいわれる活用には「型」があるということを提唱しておりまして、本の中では5つの分類となっております。


活用の型
 まず、建物の用途を変えずに従来のまま使い続けるものを「継続型」と呼んでおります。
 次に、「転用型」というのがありまして、これは当初の用途を変更し、他の用途で使い続けるというものです。当初、住宅だったものをレストランにつかっているものなどをいいます。
 そして「復活型」というものがあります。建設当時は文学座だとか劇場などの用途で使われていたもので、いつのまにか使われなくなってしまった、あるいは途中で他の用途に転用されて使われてきたものを、また本来の用途にもどして使い続けるものをいいます。あらためて創建当時の目的通りに本来の用途で使い続けるものです。
三船康道さん
 さらに「イベント型」というのがありまして、一時的な催しのためにつかうものです。例えば古い住宅を利用した住宅展示場や、あるいは俳句の会を開催する、東京駅構内でコンサートをやるといったもので、あまり主流ではない活用方法です。
 最後に5番目の「公開型」というものがあるのですが、これは建物の一部またはすべてを一般に公開するという活用方法で、主に指定文化財のやり方です。
 活用の型はこの5つに分類できますが、私どもの本では、最初の3つ、つまり「継続型」「転用型」「復活型」を主流に書いておりまして、「公開型」などはあまりとりあげておりません。本日もその前者3つの話が中心になると思います。


一般の建物と文化財の活用
 つぎに、現在行われている活用の方法の中で、いわゆる「文化財」にしない一般の建物の場合の活用について少々のべたいと思います。
 一般の建物の場合、活用というのはどちらかというと保存の手段であり、その保存というとどうしても「残す」という意味合いが強くなってしまう。人によっては、きちんと保存したいとだけ思っているわけではなくて、残すことは残してむしろダイナミックな活用を望んでいたりするわけです。いわゆる文化財にはなっていないので大幅に改造したりして見た目にもかなりダイナミックに変わってきている事例もあるのです。
 そういった一般の建物には「転用型」活用が多くて、中でも商業的に活用している場合が多い。建物の文化的価値を活かして商業的に利用する事例が多い。
 また、指定文化財となった場合、どちらかというと現在の建物を有効利用するという活用で、資料館やギャラリーといった文化的施設としての建物が多くなります。


登録文化財という新しい制度
 そこで新しくできた登録文化財制度ですが、これは活用しながら保存する制度です。外観保存が原則で目的に応じて内部を改造して転用することが可能です。文化財ですが使いやすい制度となっております。今後事例が増える制度ではないかと思われます。
 一般的に保存活用に関する誤解がありまして、例えば文化財にすると全く自由が効かなくなるというのも誤解です。
 法的な面をみますと、一般建物は、文化財保護法には関係ありませんが、建築基準法の適用は受けるわけです。逆に、指定文化財の場合、建築基準法の適用は除外されますが、文化財保護法の規制を受けることになります。従って、指定文化財の場合には、文化財的な活用をする範囲においては非常にいい制度だということができます。
 登録文化財の場合には、原則として外観の保存という文化財保護法の適用を受けますが、基本的には建築基準法の適用下にあるわけです。
 しかし、私たちが落としがちな問題がここにあるのですが、文化財保護法が保存に傾倒していると思われがちということです。ですが、条文を読んでみると、文化財保護法は、保存と活用を併存することを謳っております。これからの文化財の新たな活用にはその点に課題があると考えております。今後の課題としては、保存と活用が両立し一体となったあり方を考えるべきだと思っております。
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