きんもくせい21号
(1995年12月26日)

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阪神大震災復興市民まちづくり支援ニュース
阪神大震災復興市民まちづくり支援
ネットワーク事務局発行

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東部新都心のまちづくり

まちづくり(株)コー・プラン 上山卓

 「神戸東部新都心地区」のまちづくりが本格的に動きはじめた。

 日本の製鉄業を代表する神戸製鋼・川崎製鉄が大正以来操業してきた臨海大規模工場の遊休地を中心とした面積約 120haの広大な地区に、 東部新都心は計画されている。

 震災前の平成4年頃から、 その当時、 既に整備がすすめられ、 ほぼその全容を現しつつあったハーバーランドに対し、 三宮を挟み、 ちょうど対角に位置する当地区を対象にして、 行政・商業の中心である「三宮」、 西の新都心として商業・文化の中心である「ハーバーランド」に対し、 東の新都心として業務・文化・研究の中心である「東部新都心」を整備することにより、 都心全体の求心性と多様性を強化することをめざしで、 さまざまな検討が行われてきたプロジェクトである。

 震災後、 神戸市復興計画において、 東部新都心計画はシンボルプロジェクトの1つとして位置づけられ、 この計画に注がれる力とスピードは加速度的に高まった。

最も大きな変化の1つは、 震災で住まいを失った数多くの人々の住宅を早期・大量に確保するために、 当初約10,000人と計画していた居住人口が約30,000人に、 そのフレームが3倍になったことである。

来年早々にはその第1期が着工され、 平成9年度中に入居が始まる予定である。

 ただ、 “新たな都市機能の導入、 ウォーターフロントの活用および地域の活性化をめざした計画的な整備”というまちづくりの基本は変わっていない。

 震災前、 この計画は少なくとも30年のまちづくりだと言われていた。

そして、 ハーバーランドの約6倍の規模をもつ市街地整備であることはまちがいない。

 この1年間、 限られた時間のなかで、 事業化に向けた詳細な検討や手続きがすすめられており、 さらに、 震災復興をめざした、 そして新たな都市をつくるための、 さまざまな試みが行われようとしている。

いろいろな功罪がまちづくりに反映されることも予想されるが、 復興まちづくりの大きな一面を支えていることは確かであり、 さらに次代につながるまちづくりとするために、 さらなる工夫と努力が必要である。


東部新都心の位置


神戸都心の構成


整備イメージ図

p1

『灰色地域』でのまちづくり

神戸市灘区桜備3丁目地区

(株)都市調査計画事務所 長嶋 弘之

 ここで紹介する『桜備3丁目地区』は、 六甲道駅南側の再開発事業地区の東に隣接する約 1.8haの地域で、 神戸市の重点復興地域のひとつである「六甲地区」に含まれ、 「住宅市街地総合整備事業(住市総)」の事業区域内にある。

 重点復興地域はたしかに「白地地域」ではないが、 区画整理事業や市街地再開発事業が計画されていない地区の場合、 「住市総」や「密集事業」がかかっているとはいえ、 これらはあくまで任意事業であるため、 住民が自ら再建に向けて動こうとしない限り、 白地地域と本質的に何も異ならない。

限りなく白に近い灰色地域と言えよう。

 六甲地区では、 このような状況を打破するため、 住宅復興支援のための専門家チームを結成し、 再建のための課題が多いと見込まれる地区に入っていって、 積極的に再建のためのアドバイスや計画策定の支援を進めつつある。

 『桜備3丁目地区』では、 震災後のかなり早い段階から、 地元有志による再建、 復興の活発な活動が行われ、 一部では再開発を念頭においた準備組合の結成が検討されていたが、 十分な合意形成に至らず、 やや閉塞状態にあった。

 このため、 「こうべまちづくりセンター」の助言・指導によって、 まちづくりのための地元組織をつくり、 まち全体のあり方を考えたうえで、 個々の具体的な再建策を作るという方針のもとに、 11月23日(祝)、 『桜口・備後町3丁目まちづくり協議会』が正式発足したものである。

 まちづくり活動に対するコンサルタントの支援体制としては、 上記の住市総による「六甲地区住宅復興支援チーム」と、 「こうべすまい・まちづくり人材センター」とが協力してあたっており、 これまでに数回の幹事会を開いて、 まちづくりや住宅再建の勉強を進めている。

 区画整理事業の計画地区などでは、 事業施行者という共通の「相手」があるため、 各論では様々な意見の衝突があるとしても、 地元組織の結束は比較的強く、 まちづくりに対する姿勢も積極的である。

しかし、 灰色地域では何を目標にし、 誰に対してどのようなまちづくりを提案していけばよいのか、 が明確ではなく、 協議会の役割や存在意義についても疑問が投げ掛けられるなど、 状況がかなり異なっているという印象がある。

 外圧があろうとなかろうと、 「より良いまちへの復興を一日も早く」という願いは共通のはずで、 そのための協議会活動の重要性をアピールしつつ、 まちづくり案の検討と並行して、 具体の「ものづくり」のイメージを早く作っていくことが大切ではないかと考えている(12/20 記)。


位置図


桜口・備後町3丁目まちづくり協議会」区域図 S=1/5,000


11/23「桜口・備後町3丁目まちづくり協議会」発足式

p2

神戸方式まちづくり協議会へのラブコール

神戸・地域問題研究所 宮西悠司

はじめに

 震災後、 10ヶ月以上を経過し、 被災した街は傷跡の解体除去もかなりの程度進み、 静けさを取り戻して来ている。

部分的には仮設店舗や住宅が設けられたり、 本格的な建物の建設も始まりつつある。

しかし、 市街地は一様ではなく、 戸建て住宅の建築行為すらままならない街もある。

この困難な状況の改善をめざし、 復旧から復興に向けて、 地域の住民がまとまり、 まちづくり協議会を結成し、 まちづくりに取り組もうと立ち上がった地区も数多くでてきている。

結成された協議会の数は75を越えたとも聞く。

まちづくりに各地で携わってきたコンサルタントとしては、 数の多さに圧倒されるとともに、 協議会の運営に携わる人々の気苦労が推察される。

これまでの経験をふまえ協議会の位置付けや役割についての認識を述べ、 ラブコールとしたい。

まちづくり協議会設置の動機

 神戸市では住民によるまちづくりの経験はながく独自の制度として「神戸市まちづくり条例」を制定している。

まちづくり条例は地区計画の手続き条例として定められたもので、 まちづくり協議会の認定、 協議会によるまちづくり提案の作成およびその認知を謳っている。

震災後設立された60以上に及ぶまちづくり協議会のすべてがまちづくり条例で認定された協議会なのかは定かでないが、 まちづくりに取り組む地域が増えたことは喜ばしい限りである。

 2月16日に制定された「神戸市震災復興緊急整備条例」では、 被災の激しかった市街地を「震災復興促進地域」として指定し、 そのなかで神戸市は「重点復興地域」として緊急的・重点的に復興事業を推進する24地区約1,200haを指定した。

これらの地区は、 震災前からまちづくり協議会等が結成され、 住民によるまちづくり活動が展開されてきたところであり、 あるいは、 土地区画整理事業や市街地再開発事業を適用し神戸市が自ら復興事業を施行するところにあたる。

「重点復興地域」に指定されなかった残りの「震災復興促進地域」は白地地域とよばれる。

この白地地域でも地震による被災状況は深刻で、 復興に向けて行政の支援は欠かせない。

行政の支援を求めるためには、 個々の住民対応だけでなく、 ある一定のまとまりのある地域住民の相互でまちづくりに対する合意形成が不可欠である。

神戸市は「重点復興地域」に指定されていない場合であっても、 住民間の合意が得られ、 まちづくりの提案がまとまれば、 新たに「重点復興地域」に追加指定することを明らかにしている。

 そのため、 神戸市の強力な支援を取り付けるための機関として位置づけられ設置された協議会もなかにはあろうが、 筆者は、 まちづくり協議会を、 住民に自然に備わった親睦や善意を越えて、 地域の共同的利益を住民自身の手で実現するための組織であってほしいと願っている。

協議会の位置づけ

 長田区の真野地区のまちづくり推進会は、 神戸市のまちづくり条例に基づく協議会認定の第一号で、 その後、 住民によるまちづくり活動を15年間続けてきた。

真野地区の経験からみると、 かなりのところは住民の信頼と成果に関して評価を得ているが、 推進会は住民と行政の狭間に入り苦闘も強いられている。

それは推進会が協議会として神戸市の認定がなされても、 行政や住民にたいしては協力要請やお願いと言った心細い立場しか与えられていないからである。

 これは、 真野地区の現実であるが、 マンションの管理組合が独自の強制力を法律として整備されたのに対して、 まちづくり協議会などはあくまで任意団体的な実力しかない。

一般的な住民にとって協議会は行政に取り込まれ、 操られ、 言いなりになる組織、 住民にいらぬおせっかい、 まちづくりをかさにきてもっともらしく強要するうっとうしい組織としか見られていない。

協議会を市長が認定しても、 協議会のメンバーが住民の代理や代表者の資格が備わっているか、 また、 協議会が住民の意志を反映する構造になっているのか、 民主的な合意形成に深くかかわる部分が不明確であるあいだは、 協議会は住民からみればあくまで任意団体にしかすぎないわけである。

住民の主体性の確立、 自立の道は遠い。

住民の二面性

 協議会のメンバーは住民であり地域の町内会等の住民組織を代表する人にすぎない。

なんの権限もない、 あるのはボランティア精神とあふれる地域に対する愛着である。

しかし、 まちづくりに臨もうとすると対立が生じる。

前に立ちはだかるのも住民である。

協調できない私たち自身の弱点でもあろうか。

 自由主義市場経済のもとでは国民一人ひとりは私的利益を追求することは保証されている。

そのため、 住民は地域での親睦意識と善意にあふれた生活者というよい面と、 私的利益・私的権利の担い手といういやな面を持っている。

昨今の金権体質で、 良好な人間関係を、 また安定した地域社会を形成して行くうえで最も大切な、 行動規範や感覚が歪められてしまった。

このような社会風潮の中では、 住民は私的財産所有者、 法的権利主体として私的利益を極大化しようと行動し発言することを否定はできない。

そのような住民が多くなってもしかたがない、 その意見集約に協議会のメンバーは悪戦苦闘を強いられることになる。

行政との対応

 協議会を設置したから、 神戸市が地域に対して協力・多大なまちづくりの支援をしてくれるかと言ったら、 それは甘い幻想である。

神戸市は100万都市の巨大な自治体で縦割りもきつく、 小回りも効かない。

震災前に設置された協議会と付き合うのも青息吐息で、 これだけ増えた協議会をフォローできる体制にはなっていない。

まして、 震災後の財政事情の悪化は先行きを暗いものにしている。

神戸市が提唱している協動のまちづくりの根本は主体の役割分担である。

協議会は行政の役割を強く求めるべきである。

例えばまちづくりの基本ルールとなる建築基準法、 これをザル法におとしめているのは、 国を含めて行政の手緩さに一因がある。

このまちづくりにとってよりどころとなるルールがいいかげんでは協議会は2階に上らされて梯子を外されるに等しい。

支援は財政的なものばかりでなく、 協議会の存在を危うくするような法や制度の公平・厳正なる執行も支援である。

 住民は自らできることをしっかりやり、 その限界を見極め、 欠けるところを行政に助けを求める、 支援を求めるのが行政対応の基本であろう。

真野地区の基本姿勢でもある。

民主的な手続きの中での合意形成

 まちづくりの提案、 例えば、 地域で迷惑している通過交通を排除して歩行者に安全なまちをつくるといった地域の共同的利益を創造的に具体的にして、 ある道路を一方通行にするといったら、 たちまち賛成、 反対と住民間で意見が別れてくるだろう。

この住民の意見の相違を協議会が説得・調整できるのか力量が問われる訳である。

できなければ協議会がなんのために設立されたのか存在が怪しくなる。

しかし、 反対意見を押し潰すことのできる権力が備わることを期待したり、 さまざまな人間関係を圧力にしてごり押しできるとしたらそれは本末転倒である。

 住民が直接的に共同して地域の共通の利益を追求するという経験がないなかでは、 協議会は住民の信頼を育み、 地域の共同的利益にたいする共感を盛り上げ、 利害得失があることを納得してもらい、 具体的な行為に同意を得るといった段階的な合意形成を民主的に息ながくつづけるしか近道はないのだろうと考える。

 震災後の神戸の住民主体のまちづくりは厳しい、 しかし、 期待もされている。

そこまで来ている21世紀に、 日本の国民が人間味あふれた街をバトンタッチできるかの壮大なる社会実験とも言えるのだから。

まちづくり人に栄光あれ!(12/8 記)

p3


INFORMATION

花咲かだより/2の3

 10月から始まった「ガレキに花を―種蒔きパートII」は、 12月3日の岡本で終了しました。

夏の炎天下を彩り、 人々に一時の憩いを与えてくれた花々が春には姿を変え、 また皆様の目を楽しませてくれることと思います。

 発芽も順調です。

地図を頼りに春霞の中を花畑を訪ねる頃が待ち遠しい気分です。


種蒔き位置図

HAR基金贈呈式開催

 12月12日(火)東京経団連会館においてHAR基金の「贈呈式と現地からの報告の会」が開催されました。

11組の受賞者、 団体の中から「市民語り部キャラバン」「神戸市東灘区魚崎の復興まちづくりの支援」「震災復興映像記録の制作と上映・普及」の報告がされ、 めでたく目録が渡されました。


目録を受ける青池監督

魚崎地区で復興まちづくりハウス設置

 関西建築家ボランティアは、 HAR基金で助成が決まったことを受け早速魚崎地区 (神戸市東灘区)のまちづくり支援のため、 現地に復興まちづくりハウス(仮設のコンテナで、 東海興業の提供)を設置しました。

15〜20人程度の会議ができるスペースです。

場所は阪神魚崎駅から鉄道沿いに東へ約400mの場所で、 魚崎市場の敷地を借りています。


設置される魚崎地区のまちづくりハウス(12/20)

■連絡先:阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
〒657 神戸市灘区楠丘町2-5-20
まちづくり株式会社コー・プラン
TEL.078-842-2311 FAX.078-842-2203
担当:天川・中井

〒657 神戸市灘区六甲台町1
神戸大学工学部建設学科
TEL.078-803-1029 FAX.078-803-1029
担当:児玉


・21号を発刊し95年は終了。

本来なら「よいお年を」と結ぶところですが96年1月17日をもって新年としたいと思います。

96年もよろしく。

事務局一同。


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このページへのご意見は学芸出版社/前田裕資

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