序文
〈被災地復興は被災者の手によるしかない、 それが復興まちづくりである〉という単純結論がすでに用意されている。 第2次大戦後のアジア諸国、 最近の南アフリカ、 ボスニアなど持ち出すまでもなく、 民族自立とまでは言わぬが、 地域主権自治責任のなかでの住民自立が復興である。 支援援助がなければなり立ち行かぬようでは、 復興とはいえぬ。 それでも自ら立ち上がれぬ、 あまりに多くの人々がいる。 その自立のための支援を、 必要十分な援助を、 温度差を越えて想像してほしい。 身動きならぬ老人、 傾きずれたままの陋屋、 貧乏人失業者病人怪我人があふれている。 あまりにも多いその量が復興の質を転化させる。
「くらし」復興の基本課題はそこにある。
「まち」も形をなしていない。 区画整理再開発の都市計画事業地区では、 住宅はじめ地域社会循環すべてに関する備えと仕組みが、 今なお動き始めていない。 まちづくりこれからスタートというところだ。 それ以外の白地区域では、 東神戸市街地中心にそれでも多くの住宅店舗が建ち始め、 震災後1年半で約半分というところか。 しかしその程度では「まち」にならない。 「すまい」←→「しごと」←→「まち」が相互に関連しあってはじめて、 「くらし」が続く。 〈持続できる発展〉などというやや不遜なテーゼに比べれば、 〈持続する生活〉が被災地被災者の願望とは何ともいじらしいというべきか。
住まいも仕事も街も、 壊滅したまま未だ組み立て、 立ち上がっていない。 たとえ、 鉄道道路港湾電気ガス水道が復旧しても、 日本国の一部分としてジグゾーパズルの一片はめ込まれても、 阪神神戸地域社会の自律生活圏「くらし」復元にはほど遠い。
「すまい」再建なしに「くらし」復興なし。
いつ、 どこに、 どのような住宅が、 いかなる方針計画デザインで建設されていくか。 また、 応急仮設住宅避難先住宅から恒久住宅定住住宅への移行がどうしたら円滑に進むか。 こうした多くの課題に、 さまざまな側面からの再建検討が必要だが、 とりあえず以下3テーマが重要かつ急を要する。
被災者にわかりやすい即時の住宅情報提供が必須である。 住宅復興3カ年計画など供給側(行政)計画提示を需要側(被災者)に立った形で、 建設時期・場所・戸数・間取り・家賃とその低減策・入居優先順位とその選定方式など、 具体的に提示する、 それも早急に。
仮設住宅仮すまいなど今を生きる街から、 連続した形で恒久定住のすまいへ移って行くことのできるプログラムを組み立てねばならぬ。
すべての被災地で、 家を失った人の多くが高齢者・低所得者であった。 応急仮設住宅に住む4割以上がお年寄りだ。 それも、 ひとり暮らしが過半を占める。 仮設以外でも、 肩身の狭い同居、 慣れぬ借家すまいで老後を送る多くのお年寄りがいる。 医療福祉と連携し、 安心安全な設備仕様の高齢者住宅を公共的に大量早急に整備すべきである。 シルバーハウジングの大量供給、 高齢者向けコレクティブハウジングなど先進的モデル展開に積極的に取り組まねばならぬ。
お年寄りの人生にとって、 残された時間はなにものにも変え難い。 時間がない。 急がねばならぬ。
県市の住宅復興計画は災害公営住宅建設供給が主で、 もちろん、 それが早急に具体化され量的にも3カ年計画戸数以上倍増近い供給努力がほしい。 しかし、 計画上4割を占める純民間住宅は個別自主建設にゆだねられる。 特に公的融資を受けることのできぬ高齢者自主再建の道は険しい。 また、 住宅建設の地域経済への波及効果からも積極的な自主再建支援が必要である。 とりわけ密集細分化された接道不良住宅の再建整備への唯一の方策、 共同化協調化事業を、 促進義務化にまで踏み込む思い切った法制化と事業費の50%助成が即時に不可欠である。
同時に、 土地建物権利関係の整理、 借地人借家人の住宅再建にもハードソフト両面からの強力な助成策がほしい。