まちづくりの経済学
書評
『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2002.2
まちづくりに関わっている人々に経済学の手法や考え方を伝える目的で書かれた啓蒙書である。ここでは経済学は「どちらが得か?」を考える学問とされる。そう聞いただけで、やめたいという人がいそうだが、これが決して金儲けの話ではない。
例えば、土地の価値はその土地を開発した場合の価値から建設費用を引いた残余価値であるにもかかわらず、地価が単独で上昇したのは、地価上昇による「含み資産」を担保にした金融と、規制緩和を繰り返して背後でそれを支えた都市計画の責任だと指摘する。
土地の利用や開発に際しては、お金の出入り(キャッシュフロー)を客観的におさえて、「どちらが得か?」判断する、それが本書が一貫して教えることである。まずDCF(Discounted Cash Flow)法が紹介される。これは開発の初期投資額とその後得られる収益の差を比較し、最適な投資を評価するものである。収益は時間をかけて手に入るので、手形を落とすのと同様、予想される金利で割り戻して現時点での評価とする。
この手法は公共事業にも応用され、費用便益分析(CBA=Cost Benefit Analysis)と呼ばれる。ここでは、収益の代わりに公共事業によって市民が受ける便益を、お金に換算して評価する。便益の換算に関しては幾つかの手法が紹介されている。
さらに、土地投機と税制、都市化と逆都市化などについても、経済学的な分析が紹介される。便益の換算や「どちらが得か?」が最終判断になるかといった疑問は残るが、ともすれば、費用の極小化や便益の極大化に走ってしまいがちな我々への警鐘ではある。
分かりやすく書かれた本だが、私の経験では経済書はグループで読んだ方が理解が深まると思う。
(K)
『地域開発』((財)地域開発センター) 2002.3
この本は、建築企画、公共土木、都市計画など、様々なかたちでまちづくりに関わる人々に対して2つの役割を果たしてくれる。
第一に、効果的に都市開発プロジェクトを進めていくための「教科書」としての役割である。キャッシュフローベースの不動産投資分析手法であるDCF法、再開発プロジェクトなど、公共性の高い開発事業などに用いられる費用便益分析の基本的な概念をわかりやすく解説してくれる。
各章の内容を構成する概念用語が、キーワードとして章末に列挙されており、必要に応じて本文を読み返すことで、効率的な知識の修得が期待できる。
もう一つは、都市計画に関わる人々に、経済学という観点で都市を眺めることの重要性を説く「啓蒙書」としての役割である。
適切な規模の建築投資とは? 公共事業は効果的になされているか? 地価のメカニズムは? などのまちづくりの関心事に、経済学の手法を用いて明確に答えを導き出してくれる。
『地方自治職員研修』 2001.6
財政危機が深刻化し、また行政の説明責任が求められている中で公共事業の選別が問題とされ、何を選ぶか(選ばないか)、その合理性・透明性が問われている。本書は経済学の「機会費用」の概念をベースに、経済学の基礎的な知識や、不動産投資のもっとも一般的な分析手法であるDCF法の概要を解説し、まちづくりの中でいかに費用便益分析を活かしていくかを論じる。「ゼロ金利」や「不動産の証券化」「PFI」など、最新のトピックに関するコラムも充実している。
『ASHITA』 2001.3
欧米では、まちづくりや都市計画を担当する行政官やコンサルタントが経済学の手法と考え方をマスターしていることは、必須だと考えられているという。そして、通常は大学院に置かれている都市計画コースにおけるもっとも重要な、そして、時としてもっとも難しい必修科目の一つが経済学に関する科目だそうだ。欧米では、まちづくりに使える経済的知識が、常識として確立しているのだ。
本書は、こうした欧米の大学や大学院で用いられている教科書などを参考にしながら、経済学的な考え方と手法に焦点を当てている。DCF法と費用便益分析の基礎知識を中心に、どのような規模の建築投資が適切なのか、公共事業は効果的になされているか、都市計画規制は地価や建築投資にどのようなメカニズムで影響を与えるのかなど、まちづくりの関心事に答える入門書として、充実した内容となっている。
DCF法は、欧米で不動産投資における最も一般的な分析手法として30年以上にわたって確立しているという。しかし、日本での普及はバブルの崩壊を待たねばならなかった。「日本におけるまちづくりが遅れている背景には、経済学の常識があまりにも長く軽視され、土地神話に洗脳されてしまってきたことがある」。この国の本当のまちづくりは、今から始まる。
(三)
『室内』 2001.3
経済学なんてちんぷんかんぷん。難しい用語や公式を見ただけでうんざり。もちろん筆者もその1人で、経済の本なんて開いたこともない。まさにこうした人のために書かれたのが、本書である。
まちづくりのためには、商業施設やオフィスビル、集合住宅等を建てるための様々な民間投資が欠かせない。実際の投資には多数の選択肢があり「どちらが得か」の判断を迫られる局面がある。経済学は、この「どちらが得か」を見分けるための学問である、と著者はいう。バブル期までのわが国では「土地神話」による銀行融資によって、正しく判断されなかった。その反省から欧米にならい、民間投資の評価方法「DCF法」や、公共投資が適切かを判断する「費用便益分析」が利用されはじめている。
この本は、経済学の基礎の基礎からスタートし、DCF法による分析方法の解説などに半分をさいている。後半は、まちづくりの問題を経済学によってどう解決できるかである。まちづくりに関わる人ならば、必ず知っておかなければならない知識が一杯である。
(塩)
学芸出版社
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