建築構造に関する解説書は、通常、むずかしい数式や定理がたくさん登場するため、初心者にとっては、なかなかなじめないものがある。鉄骨構造学についてもまた、ともすれば理解し難い内容の本が少なくない。
日本建築協会は、その創立60周年記念出版として、建築関係諸分野の日常の業務・研究に役立つ有効適切なテーマを多方面にわたって採り上げた「建築技術選書」のシリーズを、現在までつぎつぎと刊行されているが、その選書のテーマの1つとして『鉄骨構造の話』が加えられることになった。
私達は協会のご趣旨に沿って、鉄骨構造の材料や組立て方などの設計・施工に関する知識と技術を、その発達の課程をたどることも含めて、なるべくわかりやすく解説することを試み、読者の皆さまに気やすく読んで理解して頂けるような本にしたいと努力した。
鉄骨建築の設計・施工には、何といっても建築構造力学の知識がその基礎となるが、本書では構造力学に関連のある項目の解説を、本シリーズの須賀好富先生著『構造計画とやさしい力学1、2』などにゆずり、それ以外の事項の説明に重点を置くことにした。
解説は、甲津功夫、西澤英和の両名がほぼ均等に分担し、筆者が文章の統一をはかるべく留意した。資料の作製にあたっては、橋爪高士君ほかたくさんの方がたのご協力を得た。お蔭で本書の内容が豊富になった。ご苦情の程、誠に有難く、厚く御礼申し上げる。
そして最後になったが、読者の皆さまが精読されて、本書から何かをつかんで頂ければ幸いである。
昭和56年6月
金多 潔