■第1回 Google Mapsで見るフェスの都市構造■
本書では、旧市街、新市街、郊外地という三地区構造を軸にフェスの発展をとらえている。第一回の今回は、そうした三地区構造の概要をざっくりと掴んでもらうことにしよう。もちろん、Google Maps の機能を活かして、拡大したり、移動したりして楽しんでください。
旧市街の迷宮空間
8世紀に起源を持つ、モロッコの旧都フェス。その旧市街の特徴を一言でいえば、細い街路が複雑に張り巡らされ、袋小路も多くみられる迷宮空間である。しかし、それは必ずしも単なる無秩序なのではなく、主要通りから袋小路に至るまでの、公私分離の原則に基づく階層的な構成をとっているといわれる。また、街区によって少しずつ雰囲気が異なるのは、中東、アフリカ、スペインの各方面から、長きにわたって多くの人々が流れ込み、それぞれ集住していたからである。そうした異質で多様な街区を全体として統合していたのが、この街路網だったのである。
新市街の欧風空間
アンリ・プロストの設計になる、新市街(通称ヴィル・ヌーベル)。平坦な農地に建設された新都市であったため、計画図の内容がほとんど実現されている。カフェの並んだ広場と広い道路、そして沿道型アパルトマンの街並みは、旧市街とは全く対照的だ。アパルトマンの一階部分は柱廊として統一されているが、これは計画の時点でそういう規制があらかじめ組み込まれていたからである。
郊外地の人為的イスラーム都市
新旧市街の対照性がフェスの都市構造の特徴なのかというのと、それだけではない。第三の市街地、郊外地は、「モロッコ人のための都市空間」を目標に、旧市街に惚れ込んだ建築家達が設計したものだ。計画都市であることに違いはないが、モスクやハンマームといった歴史的施設を導入し、また場所によっては迷路状の街路や袋小路も設けるなど、非常に凝ったデザインがなされた。
以上、本書で扱った三地区の概要を、Google Mapsの航空写真から文字通り鳥瞰してみた。三地区のいずれも、その時々の歴史的な脈絡の中で作られたものだが、ここまではフランスの植民地時代(正確には保護領時代)の成果である。こうした三地区に基づく明快な住み分けを、当時は分離政策と呼んだ。
現代に至るまで、この三地区を軸として市街地形成が進展してきている。これら性格の異なる三つの地区が、良かれ悪しかれ並置され、様々な葛藤を抱えながら共存しているというのが、現代のフェスなのだ(第1回終わり)。