景観法と景観まちづくり


刊行にあたって

 人に感動を与えたり、ホッとした気持ちにさせてくれる風景や景観があります。そうした風景や景観に出会う時、それを創り、育み、支えている人の存在を感じます。風景や景観は、自然や歴史的な時間の賜物でもあるわけですが、それには人間の営みがやはり深く関係しているのです。
  魅力のある風景や景観は、多くの人びとを惹き付ける力があるため、観光資源としての価値に関心が向くきらいがあります。しかし、私たちが普段暮らしている環境がもつべき「うるおい」も、風景や景観としてとらえられます。そうした環境の質の向上も必要です。つまり、美しく魅力があり、あるいはうるおいのある風景や景観は、私たちの人間環境の欠くべからざる条件なのだと考えます。

 このような風景や景観を形成し、育て、守るために、これまで多くの人たちが努力してきました。とりわけ、先進的なまちや地域で取り組まれてきた努力には、敬意を表さなければなりません。しかし、一方で、そのような意義を省みない開発が進んだことも事実です。これについては、「美しい国づくり大綱」に示されたとおりです。

 望ましい景観とはどのようなものなのか。それはどのように形成できるのか。諸外国ではそれはどのように行われているのか。こうした課題について、日本建築学会は大きな関心を持ち続けてきました。学会のなかに設けられた私たちの「都市計画委員会」では、景観研究に従事している研究者を中心に「都市景観小委員会」を設け、景観に関する研究を進めてきています。

 今回、この小委員会の編集で、本書『景観法と景観まちづくり』を刊行する運びとなりました。本書は、これまでの景観研究や景観づくりの実践成果を踏まえて、「景観法」の成立を契機に取りまとめたものです。本書が、全国各地の景観まちづくりに、役立つものであることを確信します。

日本建築学会都市計画委員長
鳴海邦碩