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本書は、都市計画法を60のテーマにしぼり、できる限りイラストレーション(図解)の手法を用いて解説したものである。もともと、法制度を図示するというのは困難なことが多く、限界はあるが何とかその目的に近づいたものと思っている。 さて、21世紀の都市計画の特色はどのようなものとなるであろうか。少なくとも20世紀のそれとは同じである筈はない。20世紀後半の日本は、大戦により焦土と化した国土の復興に始まり、やがてそれは経済の高度成長へと進んでいった。その結果、産業や人口の大都市圏への集中が、大きな社会問題となった。今や日本人口の90パーセント余りが都市計画区域内に居住している。当然に産業も大都市圏へと集中することになる。 人口・産業の都市集中は、慢性的な土地価格の上昇を招く。一方、限られた国土での経済成長は、社会資本(道路・交通手段・エネルギー等)のアンバランスを誘発する。都市は、そのような状態のままで郊外へ郊外へとスプロール(無秩序な拡大)をして行く。そんな時期に果した都市計画の意義は大きなものがあった。大都市圏には、埋立て等により大規模工業団地が造成され、働く人々の住居を提供するため住宅団地(ニュータウン)が各地に生まれた。輸送手段としての道路や鉄道も次々に整備されていった。日本は、急激な成長で世界の経済大国へとのし上がったのである。 ところが、それは永遠に続くものではなかった。いわゆるバブル経済の崩壊とともに国内の経済情勢は一変してしまったのである。地価の恒常的な値上りは、土地を担保にして資金を導入して、さらに産業を発展させていくという、いわゆる右肩上りのシステムを定着させたかに見えた。土地を持つ企業はますます発展し、住宅を所有する人々は多くの利益を手にすることができる時代であったが、その行き過ぎもあって、現在はその反動に泣かされている。利益の産みの親であった不動産は、今や不良資産の代名詞のようなものである。 そのような時代の大転換に遭遇して、当然に都市計画も変って行かなければならない。土地の値上りを前提とした計画や事業は必然的に見直しが必要となる。あれ程、需要の強かった工場用地も海外移転等により各地に工場跡地が目立つし、人口の大都市集中も治まって、今や都心への人口の呼び戻しが行われている。 人々は生活環境を重視し始めている。大規模な公共事業の実施だけが、都市生活を向上させるすべてではないと感じ始めている。住民等が参加し、人々の意見で自分達の住む地区の環境を整備していこうとする動きが加速されている。いわゆる「地域コミュニティ」の育成である。そういう観点から都市計画を眺めると、これから最も発展の余地がある有望分野は、地区計画等であろう。地区計画だけでも、10年前には全国で532地区であったのが、平成12年3月には3,032地区へと急成長している。これらは都市再生の核となるであろう。もちろん、都市計画事業も、その重要性が失われるものではないが、環境アセスメントの実施や、周辺住民の合意形成等が、これまで以上に重視されることとなろう。 もう一つ、都市計画を廻る大きなインパクトとなるのは、地方分権の推進であろう。大げさに言えば、日本の20世紀の都市計画は、国家のための都市計画という視点が強いものであった。それが、地方自治による都市計画と大転換したからだ。平成12年の都市計画法の改正で、それまで「都道府県知事」が定める都市計画は、「都道府県」が定めるものへと改められた。一見、何でもないことのように見えるこの改正は、国の機関としての知事から、地方公共団体である都道府県へと権限の委譲が行われたことを意味する。国の機関としての知事とは、国会議員の選挙とか、小中学校の義務教育のようなもので、飽くまでも国の指示通りに執行しなければならないものである。それに対して、地方公共団体としての都道府県とは、県の予算で県民ホールを建設したり、東京に物産館を設けたりするように、それぞれの公共団体が判断して行えば良いことになる。 本来、都市計画こそ、最も地方自治になじむ行政分野なのである。何も全国一律に同じような市街地を形成しなければならないものではない。それぞれの都市には、伝統も生い立ちもあろうから、その特色を活かした街づくりを行うべきなのである。現に、そのような意欲が各地で高まりをみせている。誠に心強い限りである。 このように考えてみると、21世紀にはそれにふさわしい都市計画の姿が見えてくるように思う。そのような時期に当り、本書が街づくりに活用されれば幸いである。 平成14年3月 高木任之
この改訂版の内容は、その後の改正に則り平成15年1月1日現在の法令に準拠したものとなっています。 平成15年4月 著 者
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